杉山大介弁護士インタビュー「No.1の措置命令対策」

2024年05月16日

弁護士プロフィール

ベリーベスト法律事務所

杉山 大介 弁護士

すぎやま だいすけ

略歴

ステルスマーケティング、医療広告など景表法にまつわる様々な領域を得意として活動中。「法律は、決して難しいものではない。」をモットーに、難解な景表法の考え方についてもお客様と寄り添いながらどのような表記が最適かをアドバイスする。
広告法務の領域の他にも、エンタメ法務、契約法務などに関する顧問対応に加え、刑事事件への対応も、日本語だけでなく英語で日常的に行っている。

<弁護士紹介>

https://www.vbest.jp/member/detail/526/

<経歴>

早稲田高等学校 卒業
慶應義塾大学法学部法律学科 卒業
東京大学法科大学院 修了
司法試験 合格
最高裁判所司法研修所(新潟地方裁判所配属) 修了
弁護士法人 あいち刑事事件総合法律事務所 入所
ベリーベスト法律事務所 入所

本文

『ベリーベスト法律事務所 杉山大介 弁護士 へのインタビュー』 No.1(措置命令対策)

優良誤認・有利誤認リスクを下げる事業者が行うべきチェック方法

事業者が出稿した広告は景品表示法(以下略 景表法)に則った表記を心掛けなければならない。事業者が出稿した広告が景表法違反に該当する優良誤認表示、有利誤認表示と判断すれば、事業者には一般消費者の信用失墜、課徴金納付命令など様々なリスクが考えられる。
不当表示に該当する表記かどうかの基準は消費者庁や業界の感覚ではなく、一般消費者の感覚だ。事業者が問題ないと認識している表記でも、表記を見た一般消費者が消費者庁にクレームを入れることで、調査対象となってしまう可能性もある。

事業者は措置命令の対象とならないためにどのような心構えをすれば良いのだろうか。今回は様々な企業法務に対しグローバルに対応しているベリーベスト法律事務所の杉山大介弁護士にインタビューを実施した。

1.事業者が把握しておくべき判断基準

消費者庁が「No.1」や「初」に関する基準として用いるのは、公正取引委員会が作成した「平成20年No.1における実態調査」だ。
調査報告書で重要視されている要件は以下の2つである。

1)当該調査が関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること

2)当該調査が社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること

事業者が実施した調査が上記の基準を満たしていれば自社調べであっても、適切な表記と言える。しかし、消費者庁が資料に目を通した結果、実態とかけ離れた調査結果であると判断すれば措置命令の対象となってしまう。
そこで事業者は実績豊富な調査会社に、適切な表記と評価できる客観的な調査を依頼するが、調査自体に問題があり措置命令対象として事業者が責任を問われてしまうケースもある。なぜこのような事態になるのか。

杉山弁護士によれば「特定の調査会社が考案した調査方法をスキームとして販売し、それを実行したのが問題と推測できる。顧客満足度No.1で措置命令対象となった事例は調査方法が間違っている」と分析する。

「顧客満足度No.1」における問題のある調査方法とはどのようなものかについて調査方法を紹介しよう。

2.事業者が把握しておくべきNGな調査方法

「顧客満足度No.1」と表記する場合、理想的な調査は実際に同種の商品・サービス複数を利用したユーザーに対しアンケート調査を行うことが望ましい。アンケートの設問が自社に有利な結果にならないよう、恣意的な設問になっていないかを確認する。

一方、実態とかけ離れた調査はどうか。回答者として、表記したいNo.1とは異なる属性のユーザーを回答者に設定。関係のない回答者に対し、自社製品を含む商品画像をいくつか並べ「カッコイイと感じますか?」といった印象に関する質問を投げかける。このような形で集計したアンケート結果は、実際に利用した上での比較評価になっておらず、自ずと実態とかけ離れた調査結果となってしまう。

杉山弁護士によれば、「顧客満足度等の調査ではサンプル数を多く取れば良いのではなく、アンケートの質を上げることが重要とのこと。その表記との関係で意味のある対象者にアンケートを集計していなければ、サンプルをいくら多く集めようが有益な調査とは言えない」
サンプル数は重要な数値ではあるが、どのような属性に対し集めるのかがNo.1調査では重要な要素となるのだ。

杉山弁護士によれば「表記したい範囲によっても異なるが、仮にサンプル数が100サンプルしか集まらない場合でも、100のサンプルが表記に必要な要件を全て満たしている対象者であれば、客観的な調査結果として評価できるケースもある」とのこと。サンプル数を重視するのではなく、対象者の質を上げることが客観的な調査に基づいた表記には必要不可欠な要素と言えるだろう。

3.責任を問われるのは事業者

事業者は依頼した調査会社が適切な調査を根拠に、「No.1」「初」が評価できるかを判断しなければならない。事業者は調査過程における不審点を見抜くことができるのだろうか。杉山弁護士によれば「統計学を理解していれば、調査過程をチェックした段階でおかしい表記であることが分かるが、分からない場合、調査会社にそのままお任せにしてしまうのではないか」とのこと。現在の景表法違反で責任を負うのは事業者のみである。調査会社は措置命令対象となった資料に名前が載ることもあるが、事業者に比べればダメージは少ない。改正景表法が施行となれば今以上に事業者への罰則規定が厳しくなり、適切な対応が今以上に強く求められるだろう。

事業者は今後どのようなことに注意しなければならないのか。杉山弁護士によれば「考え方がいくつかあるが、その1つとして景表法第7条第2項に耐えられるレベルの表記かどうかが1つの判断基準になるのではないか」とのこと。
消費者庁は不実証広告規制の中で以下のように紹介している。

優良誤認表示を効果的に規制するため、消費者庁長官は、優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合には、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、事業者が求められた資料を期間内に提出しない場合や、提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合には、当該表示は、措置命令との関係では不当表示とみなされ(第7条第2項)、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定されます(第8条第3項) ー消費者庁HP 不実証広告規制より

ポイントは消費者庁の調査が入った際、消費者庁が望む客観的な調査過程を明確に示す資料を提示できるかどうか。この資料を万が一消費者庁の調査対象となった際に提示できないのであれば、No.1、初と表記してはならないと認識しておくと良いだろう。

調査過程の資料は調査対象になってから入手できるものなのか。依頼した調査会社が協力的であれば入手可能だが、難しいこともある。調査過程の資料を把握しておくためにも、事業者が調査に関わることが重要だ。調査過程の資料は調査会社と調査内容を打ち合わせしていれば、記録が事業者の手元に残り消費者庁に示すことができる。一方、調査会社に一任してしまうと、消費者庁に調査の実施過程を把握できず、資料が提示できないだろう。

事業者は「調査会社に依頼をしたから適切な表記である」と考えるのではなく、「この表記は調査会社が行ったAという調査から、このような表記が言える」と、根拠づけを明確にしておくべきだ。

4.規制を恐れない広告表記を行うためにできること

No.1や初表記は競合他社との差をつけるために魅力的なアプローチだが、一歩間違えれば企業の信用問題に関わる。消費者庁の厳しい取り締まりの中、事業者はどうすれば良いか、杉山弁護士によれば、「広告法務特有の視点をどう社内で意識共有しておくかが重要である。問題に気付いて専門家に相談する端緒がないと始まらない」とのこと。

相談するメリットとして、どのような表記であれば景表法に適したものかを事業者と一緒に考えることができる。調査過程や記載の評価だけでなく、共に商品・サービスを表記するための協力者となるような杉山弁護士のような景表法に精通している弁護士を見つけると良いだろう。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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