弁護士プロフィール
銀座パートナーズ法律事務所
杉本 隼与弁護士
すぎもと はやと
銀座パートナーズ法律事務所
https://ginza-partners.com/
企業法務からクリエイターの権利保護、労働問題に至るまで、幅広い法律問題に迅速かつ的確に対応。事業者だけでなく広告に多く携わるクリエイターの方々の権利保護に関しては契約締結に関する相談から侵害対策まで、クリエイティブな作品が正当に評価されるよう支援。
杉本隼与弁護士(東京弁護士会)
https://ginza-partners.com/greeting/
弁護士歴16年。企業法務やIT関連の相談、不動産トラブルへの介入など様々な実績を持つ。舞台演出や小説執筆等自身の経験から、クリエイターを助けるため東京理科大学イノベーション研究科で知的財産戦略を専攻し、知的財産修士(専門職)の学位を取得。クリエイターの労務トラブルや知的財産に関する相談にも対応する。
本文事業者が自分でNo.1表記に携わることの大切さとは
No.1表記は消費者が誤解しないよう、裏付けとなる根拠資料が必要だ。事業者によって資料の作成方法は異なるが、リソースが限られている事業者は調査機関に依頼するのが一般的だ。このような事業者はアウトソーシング先の選定が重要となる。
万が一選定先を誤ってしまうと、最悪の場合、措置命令の対象となってしまうことも懸念される。調査機関の調査方法に責任があったとしても、最終的に表記の責任を負うのは事業者だ。このようなトラブルを避けるために事業者が出来ることについて、クリエイターのサポートを行う「銀座パートナーズ法律事務所」の杉本隼与弁護士にお話を伺った。
事業者は手を動かして運用ルールを覚えるべき
措置命令の対象になった表記の原因が、第三者調査機関やクリエイターにあった場合、何故事業者が最終的な責任を負うことになるのか。これは以前別記事でも紹介した「ベイクルーズ判決」で触れられている通り、他人から説明を受けて表記を決定した場合や、表示内容を第三者に委ねた場合は「事業者が表記に関与した」とみなされ、事業者自身が責任を負わなければならないのだ。
ベイクルーズ判決とは
この事案は、販売する商品のタグに卸売業者の説明に基づき、事業者が原産国をイタリア製のものとしてズボン販売していたが、実際はルーマニア産のものであり指摘を受けたというもの。
動画広告やLPサイトに関わる、ライター、イラストレーター、フィルモグラファーは景品表示法(以下 景表法)に多少の知見があるにしても、全員が精通している訳ではない。最終的な表記に対し問題があれば、事業者自身で指摘をしなければならないのだ。
このような状況を避けるため、弁護士にリーガルチェックをしてもらう方法もあるが、事業者自身が知見を持つ事が望ましい。その場合は消費者庁が推奨するガイドラインや過去の措置事例を確認すべきだが、「まずは表記を自分たちで作ってみることが重要」と杉本氏は説明する。
「大前提として「景品表示」とは、究極的に言えば文章の表現だと考えています。違法かどうかは文章の書き方次第で、違法にならない効果的な表記を「掴む」必要があります。適切かつ魅力的な文章を作成するためには自分で文章を書かなければならないため、事業者が自分の手を動かすことは重要と考えます」
事業者の感覚が特に重要とされているのが動画だ。動画広告は一般的な広告に比べ掲載できる情報量も多く訴求力も高い。動画広告市場は年々規模も拡大し、事業者自身で制作するケースも増えている。そのため誤った動画制作を行わないよう事業者は注意すべきだ。
「動画広告で視聴者に情報が正しく伝わっているか、きちんと調べておく必要があります。例えば「個人の感想です」と画面下に表示していても、事業者が行った調査に関する裏付けの根拠が示されていなければ問題の表記となる恐れがあります。また表記の根拠となる資料を示す表示時間が極端に短ければ、一般消費者が認識しない可能性も考えられるでしょう。動画の場合、人の意識は文字よりも音声や映像に注意が行きます。消費者がどの程度その表記を認識できるかを踏まえて判断しなければなりません」(杉本弁護士)
動画広告の問題点は事業者自身が実際に制作すると、どのような問題点や懸念点があるかを再認識出来る。適切な広告動画を学ぶという観点から、実際に手を動かして制作してみるのも良いだろう。
措置命令を見るタイミング
表記を実際に制作し、景表法とは何かを理解したタイミングで措置命令を確認することで、より正しい知識の蓄積が可能だ。措置命令は反面教師の材料として最適な教材であるが、適切なタイミングで確認することも重要だと杉本弁護士は指摘する。
「景表法について理解せず措置命令を見た事業者が「分かった気になる」状態が危険だと考えます。例えばNo.1の措置命令について知見のない事業者が見たとしましょう。どうやらNo.1の表記は危険度が高くやめた方が良いらしいと理解したとしても、「最もユーザーから支持された商品」といった形の表現なら問題ないと誤解する可能性があります」
措置命令を読む前に、景品表示法とはどのような法律であるかを知るところから始めその後措置事例をチェックしておくと良いだろう。余裕があれば、顧問契約の弁護士に勉強会を開催してもらうか、景表法に精通している弁護士事務所のセミナーへの参加もおススメだ。
「措置命令以外にも、業界が定める自主規制を見ておくことも重要です。業界が定める自主規制には、どのような表記が問題で避けるべきかを具体的に示しています。競合他社が表記していない背景には掲載できない理由が存在していることが多いため、それを把握しておくことも重要です」(杉本弁護士)
知見を深める方法はいくつかあるが、事業者がまず景表法とは何かを理解することが重要だ。景表法をまずは把握し、そこから各業界で定められている表記ルールを確認しておくと良いだろう。
措置事例で見ておく必要があるもの
措置命令は同職種の事業者が指摘されたケースが望ましいが、ここ直近の措置命令をチェックし、消費者庁がどのような表記に関心を持っているかを知ることも重要だ。
「報道発表資料として紹介されている措置命令の中には、消費者庁が特に問題視している表記もあります。代表的な事例が2024年3月に立て続けの措置命令対象となった「No.1表記」です。消費者庁は様々な表記の中でも「顧客満足度No.1の調査方法」が問題と考えていることが分かりました。これらの措置事例を解析していくと、特定の調査会社が杜撰なアンケート調査を実施し、それを表記に掲載していることが分かります。このように措置事例を見ていくことで問題視されている表記を掴むことも可能です」(杉本弁護士)
景表法は時代と共に新たな規制が設けられる。例えば2023年10月からは「ステマ規制」が始まった。企業がインフルエンサーに報酬を払い自社の商品を自主的に宣伝してもらう行為が違反行為と思われているが、それ以外にも該当行為があることを措置命令から学ぶことが出来る。
「ステマ規制の違反事例を見ていくと、口コミサイトで高評価を付けることを条件に料金を割り引く行為やインフルエンサーにあらかじめ決まった内容の投稿を依頼するような行為もステマ規制の対象になり得ることが分かります。措置事例をいくつかチェックしていくと、ステマ規制に該当する行為がいくつか見えてくるため、事業者は改めて問題のポイントを整理しなければなりません」(杉本弁護士)
杉本弁護士によれば、2、3ヶ月の措置命令を一度チェックし、どのようなトレンドがあるかを見ておくことが重要だ。
まとめ
スタートアップやベンチャー事業者は、措置命令の対象になる可能性が低いと言われているが、昨今の流れを見ると、決して全く無いとは言い切れない。そのため当初から対策をしっかりしておくと良いだろう。
リソースが限られ、アウトソーシングする場合であったとしても、事業者が実際に表記を手掛けている経験があれば、表記の違和感に気づくはずだ。表記は消費者のための物だ。表記を消費者がどのように受け止めているかを確認すれば間違いも減るだろう。
本インタビューの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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2024年08月26日





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