鯵坂和浩弁護士へのインタビュー「No.1表記が景表法違反になる事業者の特徴」

2024年09月30日

No.1表記が景表法違反に該当する事業者の特徴とは?〜弁護士視点で特徴を解説!

インタビュー日 2024年9月10日

これまで様々な弁護士にNo.1や初の表記の運用方法についてインタビューを通して知見を得ることが出来た。その中で、各弁護士が「事業者が景品表示法(以下 景表法)に対して知見のないケースも多くみられる」という声が多くあった。措置命令対象となってしまった事業者の中には、意図的に問題のある表記を掲載していた訳ではない。景表法について誤った知識のまま運用をしているケースもある。

そこで今回は、景表法違反の恐れのある事業者の共通点を探るべく、日頃からスタートアップ・ベンチャーの企業法務を多く取り扱う浅野総合法律事務所の鯵坂和浩弁護士に「事業者の現状」についてお話をお伺いした。

浅野総合法律事務所
https://aglaw.jp/

弁護士法人浅野総合法律事務所は、「依頼者を導くBest Partner」を理念に、法律と戦略の両面から、合理的な解決策を提案。所属弁護士である鯵坂弁護士は、第一東京弁護士会で消費者委員会、法律相談委員会に関与し、消費者事件、家事事件、債務整理・破産事件、交通事故事件等も扱う。

景表法を知らない事業者たち

景表法について問い合わせをする事業者がどの程度の知識を有しているのか。勿論知見の度合いは事業者によって微妙に異なるが、知見の無い事業者が必ず聞く項目があるとの事。

「表記に関する問い合わせをする事業者は、景表法に沿った表記か、それとも表記をすると違反に該当する可能性がある表記かの微妙なラインを尋ねるのではなく、違反事例に限りなく近い表記を確認するケースが多いように感じます。実際に薬機法について知見のない事業者が、化粧品や特定機能健康食品で記載してはいけない表記について問い合わせする事例もありました」(鯵坂弁護士)

何故知見の無い事業者は問題のある表記について、堂々と問い合わせ出来るのか。鯵坂弁護士によれば、ネット検索やAIによる情報収集が根本的な問題ではないかと指摘する。

「事業者が直近の措置事例に該当する可能性がある時に、事務所への問い合わせが増加します。その際ヒアリングをすると、「競合他社の広告やLPサイトに書いてあったので問題ないと思っていました」と言い訳をするケースも珍しくないです。他社を参考にするアプローチは決して間違ってはいませんが、それだけで表記の是非を判断するのは非常に危険です。最近ではAIにチェックしてもらえれば良いと判断している事業者もいますが、AIがどの情報を根拠にしているか不明なところもあります。過去の措置事例のデータを正確に集められたとしても、AIでは判断出来ない事もあるので、その点を憂慮する必要があります」(鯵坂弁護士)

景表法に該当する表記の判断は事業者自身でもなければAIでもなく、商品・サービスを購入する一般消費者だ。鯵坂弁護士によれば、当たり前の考え方が抜けてしまっている事業者も多くいるとの事。

「消費者の視点が抜け落ちている事業者は、景表法の適切な運用よりも売り上げ重視でビジネスを展開しているように感じます。景表法を適切に運用したからといって、商品・サービスの売り上げに直接繋がる訳では無いという意見も分かります。しかし、将来的にM&Aや上場を検討している事業者にとって、過去に消費者庁の措置命令を受けた事業者という記録はマイナスになることも覚えておく必要があるでしょう」(鯵坂弁護士)

注視すべき事業者の特徴とは

これまでの取材を含め、問題のある表記を行なってきた事業者には共通点があった。次に紹介する特徴は、著者が取材し掲載を断念した事業者の行動も含まれる。事業者自身のセルフチェックシートとして是非活用して欲しい。

ポイント1 表記チェック担当者→1名のみ配置

問題ある事業者がやりがちなアクションとして、表示に関するチェック担当者について1名で運用しているケースだ。担当者が景表法や業界の知識が豊富にある場合でも注意が必要だ。

その理由は客観的に表記を評価出来ない可能性がある為だ。事業者の内部にいる人間は、無意識に事業者の視点に立って評価してしまう。微妙な表記に直面した際にも、担当者自身の直感を頼ることになり、結果として問題のある表記をそのまま通してしまうかもしれない。

複数名チェック担当者がいれば、「Aさんはこのまま掲載すべきだと言ったが、Bさんは改善すべきという結果となった。改めて社内で議論しようと検討する事も出来る」といった形で未然に表記について議論を交わすことも可能だ。

チェック担当者を1人に任せるのではなく、複数名でチェックするように心がけておくと良いだろう。

ポイント2 部署間で連携が取れていない

景品表示法は法務担当だけに業務を丸投げするのではなく、広告、営業、調達と様々な部署が連携をしてチェックをしなければならない。特定の部署に丸投げをしている事業者は注意が必要だ。

実際に著者がNo.1表記の事業者への取材打診をした際に、こんな回答をした事業者もいた。

「当社は表示に対する問題は景品表示法に強い法務部が担当しています。そのため広報部では貴殿の質問に対し回答出来ません」

広報担当者が景品表示法について全く知見が無い状態は、非常に危険だ。仮に本当にこの事業者の内部に景表法に強い法務部が在籍しているのであれば、部署の連携がいかに重要かを認識しているものと思われる。

法務部や広報部に丸投げをし、他の部署は景表法に関与しないではなく、事業者全体で景表法について学ぶことも重要だ。

ポイント3 一般消費者の目線が抜け落ちている

ポイント3は景表法の運用と直接関わらない項目だ。しかし、取材をする中で「景品表示法を軽んじている事業者は総じて取引相手、ユーザー等を見下していることが多い」という意見を多数聞いた。

訴求力の高い攻めた広告を表記する場合でも、一般消費者の視点に立って表示を考えれば、「これは消費者に誤解を与える恐れがある」と気づく事が出来るはずだ。

しかし、事業者が売上のみを重視し過ぎていると、この点を見落としてしまうことが多い。表記をチェックする際は、消費者目線でこの表記を見るとどう感じるかを確認しておくと良いだろう。事業者自身で判断が難しい場合は、プロジェクトに関わっていない第三者に見てもらう事を推奨する。

ポイント4 専門家に丸投げ

措置命令対象となった事業者の中には、専門家に丸投げをしたことで指摘を受けたケースもある。No.1表記の措置命令では、調査機関から提示された調査結果をそのまま掲載した結果、問題のある表記をそのまま掲載してしまったというケースもある。

問題のある表記の最終的な責任を負うのは事業者だ。専門機関の調査や表示方法が誤ったとしても、最終的な表示の判断を行ったのは事業者!と消費者庁では判断する。

丸投げをして終わりではなく、専門機関や有識者の選定も重要だ。事業者によって判断材料は異なるが、実績豊富なところから選定する。調査結果を受けて自社で本当に問題がないか確認をするなど、自社でルールを設けておくと良いだろう。

ポイント5 自社調べが適当

No.1表記を行う前に競合他社がどのような表記を行っているのか、チェックする事業者もいるだろう。先行事例として簡単にリサーチを行うのであれば、この手法も有効だ。しかし、「他社がやっているので、この表記は問題ない」という思いで活用するのであれば、注意が必要だ。

No.1表記の措置命令のように、問題のある表記として既に調査が入っている可能性もある。自社調べを行う方法が杜撰な場合は、問題のある表記の事業者としてみなされる可能性があるので注意しておくと良いだろう。 自社調べてよくある失敗事例が次の通りだ。

  • 生成AIでチェック
  • ネット検索のみでNo.1や初を判断してしまう
  • 他社の手法を真似る

自社調べを行うのであれば、第三者が提示した資料を評価出来るような調査が必要だ。自社調べの情報を客観的な根拠となる資料として掲載しているのであれば、改善を検討しておくと良いだろう。

問い合わせる勇気を持つ

鯵坂弁護士のインタビューによって、景表法を始め、表記に関する知見の無い事業者の特徴を理解出来た。鯵坂弁護士によれば、弁護士に相談する事業者はまだ救いがあるとの事。

「弁護士事務所に問い合わせをする事業者は、表記に対し関心を持っている証拠でもあるので、ここから心を入れ替えられると考えています。第三者の意見を聞いて、自分達の運用が問題あると認識出来れば、そこから対策を検討出来るからです。実際に表記の問い合わせをきっかけに、顧問契約を検討するケースもあります。本当に問題なのは、表記に対し疑う目を持たない事業者だと思います」(鯵坂弁護士)

景表法に対する知見がない事業者でも、自分達も措置事例の対象にならないだろうか。という疑いの目を持って運用を行うことが重要だ。

「何も知らない事業者に出来ることは、第三者の意見を聞いてみるという勇気を持つことです。その一歩を踏み出す事が出来ない事業者が多く、まずはそこから改善が必要だと思います」(鯵坂弁護士)

まとめ

景表法や薬機法は難しい制度で、知見のない事業者にとって「専門家に任せれば良い」と勘違いしてしまうものかもしれない。もちろん恐れ過ぎてしまうことも問題であるが、何も知らないので第三者に丸投げするという考え方が問題だ。表記の最終的な責任を負うのは事業者だ。

消費者庁の調査対象になった場合、事業者のみで対応すると措置命令・課徴金納付命令の可能性が高まるとも言われている。表示は事業者に課せられた義務と捉え、日頃から適切な運用を心掛けるようにして欲しい。

浅野総合法律事務所 鯵坂和浩弁護士(第一東京弁護士会)
https://aglaw.jp/member/bengoshi-ajisakakazuhiro/

東京大学工学部航空学科卒業。新聞社、IT企業等、複数の事業会社を経験。都内特許事務所にて弁理士・弁護士として10年勤務。機械的に処理するのではなく、依頼者様の状況など個別事情に合わせた処理を行うよう努める。

(記者 山口 晃平)

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代表者 代表取締役 村岡 征晃(むらおか まさてる)
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