阿部由羅弁護士へのインタビュー「改正景表法対策における6つのポイント」

2024年09月27日

弁護士プロフィール

ゆら総合法律事務所

阿部 由羅弁護士

あべ ゆら

略歴

ゆら総合法律事務所

https://abeyura.com/

企業法務から一般民事まで幅広いリーガルサービスを提供。企業法務・景表法にも精通している大手法律事務所での経験を活かし、法人・個人問わずきめ細かなお客様に寄り添った相談を得意とする。

阿部由羅弁護士(埼玉弁護士会)
https://abeyura.com/

弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。
同事務所退職後は、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。

本文

改正景表法の今だからこそ、担当者が見直しておきたい6つのポイント

2024年10月1日に、改正景表法が施行されることになった。新しい制度の中で特に目玉となっているものが、「確約手続」だ。確約手続を利用すると、事業者は不当表示の是正を実施することを条件として、消費者庁長官による措置命令を回避することができる。

なお、改正景表法には確約手続のほかにも、課徴金制度の見直しや罰則規定の拡充等の変更が盛り込まれている。詳しくは、消費者庁による解説動画が公開されているので、チェックしておくと良い。

ここまでが、改正景表法に関する変更の説明だが、「結局のところ事業者は何に気をつければ良いか」と不安になっている担当者もいるだろう。

そこで、改正景表法施行されたタイミングで、今一度事業者がチェックすべき項目を阿部弁護士にチェック頂きながら、6つのポイントをまとめた。この機会に確認して欲しい。

ポイント1 管理体制の整備

事業者が真っ先に取り組まなければならないものが、景表法第26条第1項によって義務付けられている、景品類の提供や商品・サービスの表示に関する管理体制の整備だ。

事業者における管理体制は、消費者庁が定める「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(以下「管理措置指針」という。)を踏まえて整備する必要がある。管理措置指針では、不当な景品類の提供や不当表示を防ぐ措置の例として、以下の7項目が紹介されている。

  1. 景品表示法の考え方の周知・啓発
  2. 法令遵守の方針等の明確化
  3. 表示等に関する情報の確認
  4. 表示等に関する情報の共有
  5. 表示等を管理するための担当者等を定めること
  6. 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採る
  7. 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応

管理体制の整備状況は、不当表示などが疑われる事業者に対して調査が入った際に、消費者庁が必ずチェックする項目だ。調査段階で管理措置指針に沿った体制整備ができていないと判断されれば、措置命令や課徴金納付命令、さらに改正景表法によって新設される罰則の対象となる可能性が高くなると考えられる。

確約手続を利用する際にも、消費者庁から管理体制の整備を求められることは確実である。まずは自社の管理体制をチェックして、7つの項目にしっかり対応できているか確認しておくと良いだろう。

<阿部弁護士 コメント>

管理措置指針を含む消費者庁のガイドラインは、実務上、法令に近い影響力があると考えられています。7項目のポイントを漏れなく押さえつつ、自社に合った管理体制の整備を行いましょう。

ポイント2 広告表示等の見直し

優良誤認表示や有利誤認表示に当たるような広告表示等を放置していると、消費者庁から景表法違反を指摘される恐れがある。事業者においては、これから掲載する予定の広告表示等に加えて、これまでに掲載した広告表示等についても見直しをこの機会に行っておくと良いだろう。

故意ではない「うっかりミス」による不当表示が原因で、措置命令の対象となった事業者も少なくはない。うっかりミスをしてしまった事業者の中には、過去に掲載した広告表示等の問題を見落としてしまったケースもあるだろう。

特に「〇〇含有量No.1」や「国内初〇〇含有」といった、成分に関する表記を掲載している事業者は注意が必要だ。

表記を掲載した当初は適切な状態であったとしても、その後に含有物質が変更されたり、他社が新製品をリリースしたりした場合などには、誤った表記になってしまう可能性がある。

過去のものを含めた全ての広告表示等をこの機会に総点検し、問題のある表記を発見したら是正すべきだ。

広告表示等をチェックする際は、その商品やサービスの販売を直接取り扱う担当者だけでなく、広告部門、法務部門の担当者や経営者など、さまざまな人がチェックしておくと良い。プロジェクトに全く関わっていない担当者にも確認させると、さらに精度が高まるだろう。

No.1表記を運用する事業者にとって非常に参考となるであろう、2024/9/26にNo.1表示に関する実態調査報告書が発表された。この調査資料では、No.1表記だけでなく類似する表記に関しても言及されている。別記事にて、No.1実態調査報告書については詳しく言及するが、消費者庁が何を問題視し、事業者に何を求めているかを知るべく、下記の資料は必ず目を通すようにしておくと良いだろう。

<阿部弁護士 コメント>

「No.1」や「初」などの表記には、景表法との関係で多くの留意点があります。特に客観的なエビデンスを示すなど、外部からの検証可能性を確保することが大切です。安易に「No.1」や「初」などの表記を掲載すると、消費者庁から違反を指摘されるリスクが高いのでご注意ください。

ポイント3 資料の保管

「No.1」や「初」などの表記を掲載している事業者は、その裏付けとなる資料を適切に保管しておくことも重要だ。ただ資料を保管しておくだけではなく、消費者庁の調査が入った場合はすぐに提出できるように、情報を整理しておくと良いだろう。

アンケート結果や調査会社との打ち合わせ資料などの関連資料は、掲載した広告ごとに整理して保管しよう。

「No.1」や「初」などの表記について、裏付けとなる資料が十分に存在しない場合は、消費者庁対策について弁護士に相談しておくと良いだろう。調査会社に依頼をして再検証してもらうのも1つの手だ。裏付け資料の確保が難しい場合は、「No.1」や「初」などの表記をいったん取りやめる勇気も必要だ。

<阿部弁護士>

消費者庁の担当者から資料の提出を求められた場合、事業者は提出に応じる義務があります。故意に提出を拒否したり、質問に対して虚偽の答弁をしたりすると、刑事罰を受けることがあるので要注意です。

ポイント4 SNS投稿ルールの確認

直近の措置命令を見ると、SNSの投稿をきっかけに措置命令対象となったものもある。最近の事例として挙げられるのは、税抜価格を税込価格のように投稿した居酒屋「新時代」の事例と、インフルエンサーのPR投稿を意図的に加工したことがステマ規制違反と指摘されたchocoZAPの事例だ。

居酒屋「新時代」に対する措置命令では、食べログ上の表示とXへの投稿が有利誤認表示に当たると判断された。消費者庁は、一見すると何気ない投稿を含めて、不特定多数の投稿に対して厳しいチェックを行っていることが分かる。

また、chocoZAPに対する措置命令では、インフルエンサーにPR案件として依頼をしたInstagramの投稿を意図的に加工してお客様の声として掲載した行為が、優良誤認表示およびステマ規制違反に当たると判断された。

ステマ規制はインフルエンサーが関係するものに限られると捉えている事業者もいるようだが、決してそうではない。一般人が投稿する口コミや、経営者が行う自社商品の宣伝などについても、投稿方法を誤ってしまうと措置命令の対象となる可能性は十分考えられる。

不当表示に当たる投稿が一般消費者の目に行かないよう、社内におけるSNSの運用ルールをチェックしておくことが重要だ。広報部などの運用担当者での情報共有は勿論のこと、アカウントを運用していない別部署の従業員にも投稿をチェックしてもらうと良いだろう。

<阿部弁護士 コメント>

SNS投稿は多くの人の目に触れるため、ステマなどに当たる投稿をすれば瞬く間に炎上する恐れがあります。SNSの運用ルールをきちんと構築し、コンプライアンスの強化を図りましょう。

ポイント5 万が一の対処方法を検討しておく

景表法違反を防ぐ体制を十分に整えていても、消費者庁に違反を指摘されてしまうケースはある。万が一消費者庁から違反を指摘された場合の対処方法についても、事前に検討しておくと良いだろう。

消費者庁担当者の質問に対して、適切な資料を提示できなかったり、説明が不十分であったりすると、措置命令を受けるリスクは高くなる。消費者庁のガイドラインを踏まえつつ、調査を受けた際には適切に回答できるように、弁護士と連携しておくことが良さそうだ。

<阿部弁護士 コメント>

顧問弁護士と契約しておくと、景表法の不当表示規制への対応はもちろん、その他の法令対応や契約書のチェック、社内規程の整備など様々な事柄を相談できます。コンプライアンスの強化を目指す企業は、顧問弁護士との契約をご検討ください。

ポイント6 勉強会を定期的に開催する

景表法は頻繁に改正されている上に、消費者庁が注目するトレンドも変化する。例えば、2024年3月頃は「No.1表示」に対する措置命令がトレンドとなっていたが、現在(2024年9月)では、消費者庁はそれ以上にステマ規制に注目をしているようにも感じられる。

消費者庁が注目している不当表示のトレンドを知っておくことで、不足している対策や注意すべきことは何かをイメージできるようになり、適切な表記運用が可能となる。

常にアンテナを張るために、専門家と勉強会を開き知識のアップデートをしておくと良いだろう。

<阿部弁護士 コメント>

特に法令改正の情報については、実際の施行前にいち早く入手しておくべきです。消費者庁の公表資料を参照すると共に、勉強会などを通じて理解を深めましょう。

まとめ

以上6つのポイントが、改正景表法が施行された今だからこそ見直しておきたいポイントだ。消費者庁が公表している管理措置指針の要点を踏まえつつ、本記事で紹介したポイントを1つずつ見直していけば、景表法に沿って適切に広告表示等を運用できるだろう。

「広告担当者にとって、景表法について深く理解することは非常に重要です。法令改正にもキャッチアップして、最新の実務に関する情報を得ておきましょう」(阿部弁護士)

今回紹介した情報は、事業者が最低限取り組まなければならないものに過ぎない。さらに知見を深めたい方は、当サイトの別記事を参考にして、必要な情報収集をして欲しい。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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