松田知丈弁護士へのインタビュー「No.1表記に関する行政処分」

2024年06月19日

弁護士プロフィール

三浦法律事務所

松田 知丈 弁護士

まつだ ともたけ

略歴

松田知丈弁護士(第二東京弁護士会)
https://www.miura-partners.com/lawyers/00040/

2011年〜2014年 消費者庁にて消費者裁判手続特例法、景品表示法改正(課徴金制度)を担当。当時の経験を活かし、景表法だけでなく消費者法関連の法律に精通する。また事業者に有益な情報を発信すべく、外部セミナーの講師として景表法に関する有益な情報について発信活動を行っている。

セミナー

2025 1.24公正取引協会主催 消費者庁の法執行に即した景品表示法コンプライアンス
2024 10.15景品表示法の重要論点フォローアップ ~ステマ規制、確約手続、NO.1表示、直近の調査トレンドなど~
本文

失敗事例から学ぶ!事業者が適切なNo.1、初表記をするための心得

No.1表記や初表記を景品表示法(以下景表法)に適した表記にするためには、業界別に定められた公正競争規約・ガイドラインや、消費者庁が発表した措置命令・課徴金納付命令となった事例を事業者は確認する必要がある。

特にNo.1に関する措置命令対象となった事例は、消費者庁がどのような基準で事業者をチェックしているのかを分析出来る。しかし、事業者自身が景表法の知識が無ければ、事業者自身が知らなければならないポイントを見落としてしまうこともあるだろう。事業者が措置命令を分析する際にどのような視点が必要なのかについて、三浦法律事務所に所属し行政側の視点を持つ松田知丈弁護士にインタビューを行った。

三浦法律事務所

https://www.miura-partners.com/

“Full Coverage & Top Qualityの実現”と“Diversity & Inclusionの実践”を軸に、企業の意思決定プロセスを最も熟知した法律事務所としてクライアントの目的に応じた最適なリーガルサービスを提供。M&A、ファイナンス、会社法・金融関連法制、競争法、知的財産関連法制、訴訟を始めとする一般的な企業法務から、国際法務まで様々な企業法務に精通している。

No.1で注意すべき事例

2023年度はNo.1に関する表記が立て続けて措置命令処分対象となった。対象となった事案を確認していくと、アンケート調査に問題があるものが多い。本来であれば商品やサービスを利用したことのある利用者からヒアリングをしなければならないが、WEBサイトのイメージについて調査を実施し、あたかも「顧客満足度No.1」と表記する事案が多く目立った。

「アンケート調査が実態とかけ離れているNo.1表記だけでなく、販売シェアNo.1等も注意が必要です。過去には販売シェアNo.1の表記が措置命令対象となった事案もあります」(松田弁護士)

松田弁護士の指摘した事案では「販売シェアNo.1」の表記の裏付けとなる調査について、特定の販売店での売上実績を元にした調査であったとのこと。特定の販売店での結果であるものの、表記自体が「販売シェアNo.1」と表記してしまうと、一般消費者は全国1位だと勘違いしてしまう可能性が高い。

この事例と類似しているケースを通販サイトの表記で見た方もいるかもしれない。「デイリーランキングNo.1」と表記し、あたかもすべての通販サイトの中でその日1番売上げた製品のようにアピール出来てしまう。

事業者が通販サイト内の売上をNo.1として表記したいのであれば、「〇〇サイトのデイリーランキングNo.1」と表記をすべきだ。とはいえ、たった1日の売上記録1位を表記したとしても、魅力的な表記と感じるかは微妙なところである。売上No.1を表記したいのであれば、一定期間実績が必要となるだろう。

消費者庁が対象にする事例

景表法は抽象的な説明が多く、事業者が表示しようとしているものが適切か違法かの判断が難しいこともあるだろう。事業者自身が適切な表記を心掛けていたとしても、消費者庁の調査が絶対に入らないとは言い切れない。一般消費者が表示を誤解しやすいものであれば、消費者庁の調査対象となり措置命令対象になることも考えられる。

松田弁護士によれば、「消費者庁が広告・表示の内容を一般消費者がどのような事実として受け止めるのか、それと根拠とは一致していない疑いがあるといえるかという視点でチェックをしている」と分析する。さらに表記の注釈の解釈も併せて事業者はポイントとして押さえておくと良いとのこと。

「注釈には表記の意図や表示の根拠に対する事業者の考え方が表れているといえるためです。注釈の内容や表示場所に問題があれば、景表法違反の疑いがあると評価できる場合があると考えられます」(松田弁護士)

例えば、商品のパッケージに「カートリッジ3本付」と記載があったとする。パッケージを見た消費者は、商品本体とは別にカートリッジが3本入っていると思うだろう。しかし実際に購入し別入り部分を開封するとカートリッジは2つしか入っておらず、開封した箱の裏に「本体カートリッジと合わせて3つ」と注釈が記載されていたとしたらどうか。購入前に気づくのは至難の技だ。さらに、注釈を書くことで事業者側が「一般消費者がこの表記を見て誤解するかもしれない」と考えていることが推察出来る。

上記のように表記の意図は注釈を読めば、事業者が何を考えているか読めてしまい、結果的に誤表記か区別出来てしまうのだ。

「注釈が技巧的過ぎるような場合には、消費者が誤認する可能性を認識したうえであえて表示を強行したとして「悪質な業者」と判断した場合に該当する恐れを高めると考えられます」(松田弁護士)

事業者が「この表記は消費者に誤解を与えそうなので注釈を付けて対処しよう」と考えて対策をしたものに対し、調査官が「注釈で予防線を張っているということは、この表記自体が誤認識を与える可能性を事業者自身が知っている」と判断し悪質な事業者として調査を進めていくことも考えられる。

事業者目線では注釈で消費者が誤解しないようにしたとしても、表記のアプローチ次第で一般消費者は誤解をしてしまう恐れがあると認識することが重要だ。注釈でクレーム対策を構築するのではなく、誤解を与えそうな表記は他の表記に変更したほうがよいかをアクションプランに入れられるかが景品表示法では重要な感覚と捉えておくと良いだろう。

アンケート調査がいらないアプローチも

注釈における考え方をNo.1や初の表記に置き換えて考えると、恣意的なアンケート結果に基づくNo.1や初表記こそが同等のものと言えるだろう。

「No.1はユーザーに対してアンケートを実施するものだけでなく、売上、成分、販売実績などアンケートの要らない調査もあります。根拠となる裏付けがしっかり提示できるものに切り替えても良いかもしれません」(松田弁護士)

No.1表記で措置命令対象になりやすい事例は、特定のユーザーに対しアンケートを実施し、その結果を元にNo.1を表記するものだ。ユーザーに対してアンケートを実施する場合は、対象者が該当する人物か、アンケートの設問が主観的になっていないか、サンプル数は問題ないかなど、確認すべきポイントが多い。

No.1表記を実現するための調査ハードルが高く、調査が困難になるだろうと感じているのであれば、どのような調査を実施すればNo.1や初表記が成立するのか考えるのではなく、他に魅力となるポイントは無いかを探して見ても良いだろう。

企業法務で出来ること

事業者が景表法に沿った適切な表記を実現するために、「ケアレスミスを防ぎ、失敗事例から学ぶことが重要」と松田弁護士は考える。

措置命令・課徴金納付命令の対象となった事業者の多くは知名度の高い企業であり、悪意を持って表記を反映したというよりも、ケアレスミスが結果として措置命令対象となってしまったケースが多い。

調査会社が実施した調査内容をチェックしなかったり、ホームページの更新タイミングで表記の再確認を忘れてしまうなど、ケースは様々だ。このようなケースを防ぐために出来ることは、社内での意識改革だ。

「意識改革の第一歩は措置命令処分の内容を分析し、失敗事例を学ぶことです。失敗事例を確認すると何が問題だったのかが分かり、講ずるべき対策が見えて来ます」(松田弁護士)

さらに松田弁護士は、これまでに消費者庁の調査が1度も入ったことがない事業者こそ注意が必要だと解説する。

「失敗をしていない事業者はこれまでの運用方法に自信を持っていることが多く、危機感が薄れてしまいます。現行の管理体制に問題はないのか、表記ルールのアップデートは必要かを定期的に確認しておきましょう」(松田弁護士)

失敗事例を1つだけ確認して終わりではなく、定期的に措置命令対象となった事例を確認し続けることで、景表法についての対策がイメージ出来るだろう。事業者がアップデート出来る仕組みを継続的に実施出来れば、企業法務の仕組みづくりを構築出来るようになるはずだ。

「景表法に対する意識が高い事業者は、情報をアップデートするだけでなく景表法への強い意識がそのまま企業文化に反映されています」(松田弁護士)

事業者自身がNo.1や初の表記について、調査方法や表記内容を評価するだけでなく、定期的に失敗事例を確認し事業者の景表法の危機意識をアップデートしておくことが、意識改革の第一歩と言えるだろう。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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