本文景品表示法違反から学ぶ注意点
以前実施した、消費者庁インタビューにおいて、命令措置、課徴金、行政指導がどのような過程で行われるのかについて解説した。今回はさらに踏み込み、消費者庁がどのような基準で命令措置、課徴金納付命令、行政指導等の対象かを判断しているのかについて解説する。
消費者庁が方針としているものは、平成20年に公正取引委員会が発表した「No.1表示に関する実態調査報告書」だ。現在も様々な調査を行っている。
報告書の中で特に重要視している点は次の通りである。
- 一般消費者が他の商品に比べて有利であると誤認される表示は不当表示の対象となる。
- 顧客満足度、サービスの内容、入学試験の合格率・合格者数,商品の効果・性能、商品の内容に関するものは一般消費者の商品等の選択に与える選択肢が大きい。
一般消費者がNO.1の表示を参考にする可能性が高い商品やサービスに関しては、調査結果と実際の差異がある場合、消費者庁による調査を進める可能性が高いということを理解しておくと良いだろう。
報告書はあくまで対象となるものは何かを抽象的に示したものであり、具体的にどのような表示がいけないか、判断できないケースも多い。
広告主が判断する際の指針がないか消費者庁 表示対策課 指導係に問い合わせたところ、「知り合いに表示を見せて正しい判断できるかが重要」と判断基準のヒントを得ることができた。
消費者庁は全ての表記に対して景品表示法違反かどうかを調査しているのではなく、一般消費者・競合他社からの指摘を受け、社会に及ぼす影響力を鑑みて調査を実施する傾向にある。 命令措置の対象となる表記は、一般消費者が誤解する可能性があるかどうか。一般人がその表示を見て正確に理解できない表記は、将来的に景品表示法の対象になる可能性が高いと考えておくべきだ。
2023年に成立した改正景品表示法は2024年中に施行される予定で、景品表示違反に該当すれば罰則対象となる可能性が高い。広告主に問われる責任はますます大きくなるため、社会の信用を失わないためにも、No.1の調査過程を確立するだけでなく、表記自体に本当に問題がないかチェック体制を見直しておくことが求められる。
これまで広告表記の適否を社内のみで判断していた場合は、消費者の感覚に近い第三者にも確認し、誤解を招かない広告表示にするための努力も必要だ。
消費者庁から見た景品表示法違反にならない適切なサンプル数
No.1調査をはじめとした様々な調査を行うにあたり、サンプル数をどのように設定すべきか頭を悩ませる(広告表示・リサーチ)担当者も多いだろう。
公正取引委員会が平成20年に発表した「No.1表示に関する実態調査報告書」では、適切なサンプル数について、以下のように定義されている。
- 当該調査が関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認 める方法によって実施されていること
- 社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること
サンプル数が不十分な調査結果を元にNo.1表記をすると、客観的な調査結果として妥当と認められず、景品表示法違反となる可能性が高い。そこで適切なサンプル数はいくつかについて、消費者庁はどのように考えているのかを把握するべく、消費者庁 表示対策課 指導係に問い合わせを行った。
一般的にアンケート調査では、最低でも400のサンプル数を集めることができれば、信頼性の高い結果だと言われている。一見すると400のアンケート・サンプル結果を集めることができれば問題ないように思えるが、消費者庁 表示対策課 指導係によれば、この数値は必ずしも妥当とは客観的に評価できるものではないとのことだ。
例えばAというお店が「会社員が選ぶ全国居酒屋チェーン店 顧客満足度1位」と表記しようと検討している。A社が2つの調査方法を検討した場合、どちらが客観的なものか判断できるだろうか。
- 名古屋市内在住の会社員400名を対象
- 47各都道府県からピックアップした400名の会社員
サンプル数はどちらも400名ではあるが、①は名古屋市内の会社員を対象にした調査のため東海圏の偏った結果となり「全国」とは言えないことが分かる。一方②は47都道府県のサラリーマン400名にアンケートを実施しているため、「全国」と表記するために客観性のある調査を行っていることが分かる。
しかしながら、これはあくまで東海エリア、全国エリアの範囲を比較しただけであり、客観的に妥当と判断できる調査結果ではない。
顧客満足度を確かめるのであれば、一度でも来店した経験がある全国400名の会社員にアンケートを実施しなければならない。仮にAというお店に足の運んだことのない会社員に対し調査をしているのであれば、結果的に、第三者の立場から妥当な調査結果と評価してもらえないのだ。
サンプル数を多く集めることも客観性を示すために重要ではあるが、「どのような過程でその調査結果を得たのか」という点が景品表示法違反に該当しないためには重要だ。
消費者庁 表示対策課 指導係よれば、行政指導の対象となった企業の中には、調査会社の調査過程を知らなかったケースも珍しくないと指摘する。サンプル数に目が行きがちだが、消費者庁は客観的に評価できる調査結果かどうかで判断をしている。サンプル数さえクリアすれば良いのではなく、客観的な評価を得るために、どのような調査を行えば良いか、広告主が調査過程をしっかり把握しておかなければいけないことも心得ておくと良いだろう。
網羅的な調査結果に必要な3つの調査とは
No.1調査、初調査いずれも、表記を行うことで商品・サービスにおいて優位性を保つことができるが、調査方法を誤ってしまうと景品表示法違反に該当してしまう。「No.1」「初」と表記するためには、網羅的かつ客観的な調査方法の提示が必要だ。どのような過程で調査を行うべきかを知るため、消費者庁 表示対策課 指導係に問い合わせを行った。
消費者庁 表示対策課 指導係によれば、客観的な調査として妥当と言えるのは「知財調査」「公開調査」「深掘調査」の3つの調査を経たものだ。3つの調査では、それぞれどのような調査が行うのかを紹介する。
初期段階の知財調査では、これから表示したいNo.1や初の表記をしている競合がないかを調査する。初調査では知財調査時に表示したいものに対して、特許申請していないかを確認する。
知財調査を行い表記に問題がないと判断した後は、公開調査を実施する。公開調査では、競合他社が同様の表記をしていないかを調べるためにホームページを1社ずつ細かくチェックする。ここでよくある失敗例は、ネット検索の上位表示のみで判断をしてしまうことだ。
検索上位にヒットした数社をピックアップしても網羅的な調査だとは言えない。検索ワードでヒットした全ての企業を1つずつ丁寧に調べなければ、網羅的であるとは言えないのだ。公開調査を終えた後は、検索キーワードを変更し最終段階の深掘調査を行い、網羅的な結果を行い、問題がなければ表記することが可能だ。
ここで注意すべき点は、消費者庁は客観的に妥当と判断できる調査資料を求めているのであって、完璧なデータを提示させようとしている訳ではないことだ。情報収集には限界があるため、完璧な検証結果を導くことは不可能だ。どのような過程で調査を行ったのか、過程を明示できるかどうかが重要だ。
適切な調査方法を行っている調査会社は、この3つの調査を必ず実施するため、「No.1」、「国内初」いずれの表記でも打ち合わせ時に必ず説明があるだろう。一方、ずさんな調査を行っている調査会社は、調査過程を企業側に示さず、結果だけを示すケースも多い。調査会社の調査過程を検証せずに表記を行うと、景品表示法違反に該当した企業と同様、措置命令、課徴金納付命令の対象となる可能性も十分考えられるだろう。
現在の景品表示法では責任を負うのは広告主だ。企業のレピュテーションリスクを回避するためにも、調査会社がどのような調査を実施しているか、おおまかな概要だけでも理解しておく必要がありそうだ。
消費者庁がアウトと判断する3つのNG事例
消費者庁が景品表示法違反かを判断し、措置命令、課徴金納付命令、行政指導をする際、公正取引委員会が平成20年に作成した「No.1表示に関する実態調査報告書」に基づいて検討していることが分かった。 一方で、具体的にNGな表現とそうでない表現の明記がされていないため、判断をどうすれば良いかわからないケースも多い。どのような事例が景品表示違法違反に該当する可能性が高いか、消費者庁 表示対策課 指導係に問い合わせをし、避けるべきものはどのようなものかについて聞き取りした。
今回消費者庁 表示対策課 指導係に問い合わせたNGな表現は全て、「よくある広告主から寄せられるNGな問い合わせ事例」を元に作成した。大きく分けて3つの問い合わせが多いとのことだ。
その1
No.1を表記する広告主の中には、比較対象を恣意的なものにして調査をしているケースがあるとのこと。特に「顧客満足度No.1」では、どのような対象に対してアンケートを行っているのかをチェックしている。偏った結果になるものであったり、調査すべき対象者にヒアリングをしていないものは景品表示法違反に該当する。
他社と比較をする際は偏った結果にならないよう、フラットに調査することが重要だ。
その2
自社調べをする企業の中には、ネット検索の1ページ目に表記された企業のみを対象として調査を済ませてしまうケースも多い。網羅的に調査していないものであれば、調査結果として妥当とは言えないため、絶対に避けるべき調査方法だ。
「世界初」「国内初」といった表記の場合は、ネット検索だけでなく特許庁のJ-PlatPatなどを用いて検索をする必要がある。これらの手順に沿って調査をしていないものは、全て客観的な調査を行っていないとみなされ、消費者庁による調査対象となる可能性が高いと理解しておくと良いだろう。
その3
調査結果が正しいものであっても、適切な形で引用しなければならない。調査期間はもちろんのこと、調査を引用した形で表示をしていなければ、一般消費者に誤解を与えてしまう可能性があるからだ。
特にNo.1、初の措置命令対象となった企業に散見するケースが、視認性の悪い表記だ。典型的なケースが、調査方法をWEBページの最下層に設置し、一般消費者が見つけられないようにするというものだ。可能であれば、調査過程を示す文章の視認性を意識しておくと調査対象のリスクを下げることができるだろう。
商品パッケージのデザインの兼ね合いで、調査過程を示す文章をうまく表記できないこともある。大切なことは「誰が見ても視認できる」ということであり、この点をクリアしていればそこまで神経質にならなくて良いことも覚えておくと良いだろう。
以上が問い合わせの多い好ましくない表記の事例だ。今回紹介したものはあくまでほんの一例であり、その他にも景品表示法違反に該当するケースもある。本記事を参考にしても疑問点が解消しないようであれば、消費者庁 表示対策課 指導係への問い合わせを推奨する。
本記事は2024年3月26日に実施した消費者庁 表示対策課 指導係への問い合わせ内容を元に記事を作成した。
消費者庁 表示対策課 指導係 03-3507-8800(代表)
本インタビューの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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2024年04月25日





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