吉原崇晃弁護士へのインタビュー「飲食業界の景品表示法対策」

2024年08月28日

「新時代」措置命令から見えてきた消費者庁が次に狙うもの

インタビュー日 2024年7月31日

景品表示法(以下景表法)は一般消費者が不利益を被らないよう、その時代に合わせた解釈を用い規制対象をアップデートしていくものだ。No.1や初の表記を広告で活用し、宣伝を検討している事業者は考え方を改めなければならないかもしれない。

その理由は、2024年7/30に発表された居酒屋「新時代」を経営する株式会社ファッズに対して出された措置命令だ。この表記は過去に措置事例となったNo.1表記と関係がないが、消費者庁の方針を解釈する上で非常に興味深いものである。措置命令から読み解けるものは何か、今回は日頃から事業者の景表法に詳しい吉原綜合法律事務所の吉原弁護士にお話をお伺いした。

吉原綜合法律事務所
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通常法律相談から企業法務、社員研修と様々な領域で事業を展開。相談者が納得するよう当日予約の法律相談を除き、法律相談時までに事前に提供資料を読み込む時間を確保し、当日の法律相談の時間は、詳細部分の確認をした上での回答と説明、及び対応策を協議等する時間に充てている。

居酒屋新時代の措置命令とは

2024年7月30日に消費者庁が発表した措置命令がどのようなものかを解説していこう。居酒屋新時代の食べログページ、X(旧Twitter)での投稿が、あたかも「税込価格」の表記のようにしていた点が有利誤認として該当した事案だ。飲食店の消費税の表示価格に関し、景表法の措置命令が出されるのはこれが初めてのケースとなった。

「消費者庁が発表した資料によると、食べログのメニュー、Xでの投稿の表記があたかも「税込価格」のように表記されていた点が問題となっています。これが2021年4月1日より総額表示が義務化されたものに起因するもので、販売する商品やサービスが税込でいくらかかるのかを必ず記載しなければなりません。消費者庁のQ &A集でも、「消費税込みか否かを示さないで消費税抜きの価格のみを表示することは、当該価格が消費税込みの価格と誤認されるおそれがある」と回答しています」(吉原弁護士)

問題のある表記を実際に確認していくと、「税抜き価格」という表記を確認出来ないことが分かる。景表法対策の前提として、消費者庁がダメな表記と明記している表記は、どのような事情があれ措置命令対象となってしまう可能性が高い。事業者は消費者庁がどのような表記をNGとしているのかについて確認しておくと良いだろう。

措置命令から分かってきた「消費者」「事業者」の意識

今回の措置命令で注目すべきポイントとして、「Xの何げない投稿に対しても措置命令の対象となる可能性が高い」という点だ。これに関しては景表法に精通している吉原弁護士も興味深いものだという。

「今回の措置命令は、消費者庁が今まで以上に踏み込んだものになっていると感じました。食べログの表記は「税込価格」と表記されていることから誤認の恐れがあるが、Xの投稿は税込とも税抜とも書かれていない。この問題となった表記を一般消費者が見たとしても、「この表記は意図的に税込価格を表記せず消費者を騙そうとしている」と捉えない可能性が高いからです」
景表法の基本的な対策として、一般消費者の目線に立ってその表記を見てみることが重要といわれている。仮に事業者が「この程度の表記であれば問題ないだろう」と解釈をしていた場合はいくら適切な対策を講じたとしても今回の措置命令は防げきれなかったかもしれない。

「これからは、消費者庁が問題と判断しているものに対しては、一般消費者が危機意識を感じていないものですら踏み込んだ措置命令を出すのか、という姿勢が見られたことが興味深いと感じています」(吉原弁護士)

なぜ細かい表記にまでチェックが行くようになってしまったのか。その理由の1つに一部の事業者や消費者の景表法への意識が高まったからではないかと、吉原弁護士は指摘する。

「今回の措置命令は、消費者庁が独自にHPやSNSの投稿を見て調査を実施したとしても、検証しようがないと思います。というのも、WEBページやSNSの投稿に(税込)と記載されていなくても、あるいは税込とも税抜とも記載されていなくても、実際にお店では税込価格で提供されていることも考えられます。その場合には、表記されている価格が税込価格なので、税法上も景表法上も問題はありません。つまり、消費者庁が実際にお店に足を運び、税抜き価格だったということを知らなければ調査の入りようがないため、消費者庁のパトロールで見つけたのではなく、一般消費者あるいは事業者が実際に足を運び「総額表示」ではないことを知ってこの指摘をしたのだと思います」(吉原弁護士)

今回の措置事例は単に消費者庁が細かい指摘をするようになっただけでなく、不当な表示を指摘する一般消費者や事業者の景表法への意識が高まっているように受け止められる。

だからこそ、景表法を軽視せず適切な運用を心がける必要が事業者には求められると言えるだろう。

NO.1との関係性

今回の措置命令をNo.1表記に置き換えて考えてみると、次の3つのポイントで注意しなければならないことがあると感じた。

  • 杜撰なNo.1表記は厳しく指摘される可能性が高い
  • 消費者庁は常に消費者の受け止め方を考えている
  • 何げない投稿でも消費者は見ている

杜撰なNo.1表記は厳しく指摘される可能性が高い

消費者、事業者の景表法への意識が高くなっているため、消費者庁が気づかない違反事例でも指摘が入れば調査を実施するという点だ。No.1表記が措置命令対象として厳しく見られた今、「消費者庁はリソースが限られているので対象となりにくい」と考えたとしても、通報によって調査が入るケースも十分に考えられる。No.1表記は、直接は競合他社と比較する表記の仕方ではなくとも、競合他社(事業者)からすると比較をされた気持ちになるので通報したくなる動機は大いにある。消費者だけではなく事業者が、自社の事業を守るために勢力を上げて通報するということもあり得る。

適当なNo.1表記は措置命令として厳しく指摘される可能性があると事業者自身が認識しておかなければならないだろう。

消費者庁は常に消費者の受け止め方を考えている

消費者庁は表記に対し、一般消費者がどのように受け止めているかを常に考えていることが措置命令を見て判明した。

「少なくとも今回問題となった表記は3年前では、何も書いていない表記を「税込価格」と思い込む消費者はいなかったのではないかと思います。WEBサイトやSNSで目にしたメニュー価格を見て、実際に居酒屋に入ってメニューを見ても「税抜価格」、「税込価格」どちらだったのかと照らし合わせようとする人は少なかったと思います。しかし3年が経過し税込価格の義務化は消費者に浸透し、その結果表記として問題があると指摘した点は実務的に非常に大きな動きだと考えます。景表法違反の措置命令では会社名を含めて公表されてしまいますからね。」(吉原弁護士)

消費者庁は事業者が提示する表記に対し、どのような受け止め方をしているのか、消費者庁はこの視点で表記を見ていることを前提に「No.1」に関する表記を考えないといけないだろう。

何げない投稿でも消費者や競合他社は見ている

今回の措置命令でXの投稿ですら調査対象となることが判明した。これは消費者庁の「SNSで事業者が発信しているものを細かく精査する」というメッセージとして受け止めることもできる。もちろん、消費者庁が事業者の投稿を1つずつチェックすることは現実的に考えられない。

しかし、今回の件を受けて吉原弁護士が指摘するように、一般消費者あるいは競合他社が消費者庁へ通報することで調査が行われることもある。

消費者庁だけでなく、一般消費者も事業者の問題のある表記をチェックする人だと捉え、No.1表記や初の表記をチェックしておくと良いだろう。

最新の措置命令を確認してアップデートを

景表法に強い弁護士が共通して伝えている「過去の措置命令を研究することで、消費者庁のメッセージが分かる」について今回の措置命令で理解できた。

景表法は社会と共に変化をするものであるため、最新情報を常に取り入れていかなければならない。事業者ができることは、消費者庁が発表する措置命令を自分事として捉え対策を検討することだ。

ネットで調べる情報では間違った情報も多い。安全に運用するためにも、吉原弁護士のような景表法に強い弁護士に話を聞くと良いだろう。

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