佐藤弁護士へのインタビュー「二重価格表示の運用」

2025年09月24日

弁護士プロフィール

中本総合法律事務所

佐藤 碧 弁護士

さとう みどり

略歴

まっすぐ。をモットーに、景品・表示規制をはじめとする消費者法全般、民事、商事一般、少年事件、労働事件を取り扱う。2011年〜2014年には、消費者庁に出向し、消費者制度課において消費者の財産被害に係る行政手法の検討等、表示対策課において景品表示法違反事件の調査等を行う。

本文

二重価格表示の注意点と事業者が注意すべきこと

通販サイトの中などで、「通常〇〇円のところ、今だけ期間限定〇〇円」という表示を目にしたことはないだろうか。これは、「二重価格表示」と呼ばれ、安さを強調する際に事業者が使用するものだ。

こういった価格表示については、消費者庁の公表する「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」と称するガイドラインがあり(※1、以下「価格表示ガイドライン」)、誤った表示をすると景品表示法上の有利誤認表示に該当する可能性がある。

その中で、2025年9月12日、ジャパネットたかたが販売した「おせち」に対する表示が今注目されている。どのような点が問題か、中本総合法律事務所 佐藤 碧 弁護士にお話を伺った。

二重価格が問題になる事例

消費者庁は、二重価格で問題とする表示を次のように具体例を出して説明している。

(1) 家電製品の店頭価格について、競合店の平均価格から値引すると表示しながら、その平均価格を実際よりも高い価格に設定し、そこから値引きを行っていた。

(2) フレーム+レンズ一式で「メーカー希望価格の半額」と表示したが、実際には、メーカー希望価格は設定されていなかった。

「二重価格表示には色々なパターンがありますが、よく問題になるのは過去の販売価格を比較対照価格にするものです。例えば、セール中で価格が期間前の通常価格(比較対照価格)に比べて安いと謳いながら、実際には比較対象価格での販売実績がなかったり、短期間の販売実績しかなかったり、というもの。どういった場合が有利誤認表示になってしまうかについては、価格表示ガイドラインで説明されています。」

ジャパネットたかたの問題点

では、今回ジャパネットたかたの事例では、何が問題視されてしまったのか。

「今回は、上記のような過去の販売価格を比較対照価格とする場合とは異なり、期間終了後には高額な通常価格となります、という、将来の販売価格を比較対照価格としている点が問題とされているようです」

ジャパネットたかたは、自社ウェブサイトにおいて、おせち料理について、早期予約キャンペーンとして、令和6年7月22日から同年11月23日の間に予約をした場合、当該期間経過後の価格(2万9980円)より1万円引きになる、といった表示をしていた。

「キャンペーン期間中の販売価格と、キャンペーン終了後の将来の販売価格を比較し、前者の方が安いという表示をしていたということです。しかし、当該おせちはキャンペーン期間終了後販売されていなかったため、して実態のない将来の販売価格との比較を行っていたとして、違法な二重価格表示に該当するとみなされ措置命令となりました」

このような将来の販売価格を比較対照価格とする場合について、価格表示ガイドラインの他、「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」というガイドライン(※2、以下「将来価格ガイドライン」)が公表され、その中で、「将来の販売価格で販売する確実な予定」があると言えるかがポイントと佐藤弁護士は解説する。

「例えば将来の販売価格が非現実的なほど高価であったり、極めて短期間でしか当該価格で販売されなかったりした場合には、そういった予定はなかったと認定され、違法な二重価格表示とされます」

本件は、ジャパネットたかた側は争う姿勢であり、消費者庁に対し不服申立て(審査請求)を行った。

「同社の公表している内容からしますと、キャンペーン期間中に予定販売数分の予約があったことから、キャンペーン終了後に将来の販売価格で販売することができなかったに過ぎず、過去の実績からも、「将来の販売価格で販売する確実な予定」は存在した、といった反論が今後行われていくのではないかと思われます。」

佐藤弁護士によれば、将来の価格と比較をする二重価格表示のケースはあまり多くないとのこと。類似事例は平成30年~31年にジュピターショップチャンネル株式会社に対して発出された措置命令・課徴金納付命令だ。

通販番組で紹介されたA商品の価格について「明日以降は〇〇円」と番組内で案内されていたが、実際に「明日以降」の価格で販売されていた期間はわずか3日間。消費者庁は、将来の販売価格として十分な根拠がなかったとし、有利誤認に該当すると判断したものだ。

販売実態のない、または今後販売する予定のない価格と比較し、あたかも安く販売していると、違法の二重価格とみなされる可能性があるため注意が必要だ。

二重価格を適切に運用するためには

二重価格は違法と紹介するメディアもあるが、価格表示ガイドラインや将来価格ガイドラインに沿って運用すれば、No.1表示と同様に問題のない表示だ。

佐藤弁護士によれば、注意点もいくつかあるとのこと。

「二重価格の措置命令事件を確認していくと、優良誤認のケースと比べて、消費者庁はガイドラインに沿って形式的に行政処分を出す傾向があるように感じました。その当否はともかくとして、事業者が二重価格表示を行う際は上記のようなガイドラインをしっかりと遵守して運用を行うことが重要だと考えます」

二重価格を用いる際は、ガイドラインを確認し、どのような表示が問題のある表示に該当するかを把握しておくと良いだろう。また、二重価格だけではなく表示全体を確認する必要があると佐藤弁護士は説明する。

「二重価格表示に該当しないように表示しても、他の表示に問題があれば措置命令等の対象になる可能性もあります。表示は1つ気を付ければ良いのではなく、全体で注意すべき表示です。その点を考慮しておくと良いでしょう」

措置事例を取り下げられる可能性は

ジャパネットたかたは今回の措置命令に対し不服申立てを行ったとのことである。その一方で、不服申立てや取消訴訟により、行政処分が取り消されたケースはどの程度あるのか。

「事実関係の詳細は不明ですので、本件でどう判断されるかは分かりませんが、これまで行政処分の取消が行われた事例は多くはありません。景品表示法の措置命令ですと、取消訴訟により取消が認められた唯一のケースとして、『糖質カット炊飯器 LOCABO(ロカボ)』を販売していた株式会社forty-fourに対する件があります(令和7年7月25日東京地裁判決。なお、同年8月7日付で消費者庁が控訴しています)。また、不服申立て(審査請求)により課徴金納付命令が取り消されたケースとして、日産自動車株式会社に対する件があります(平成30年12月26日付)。」

消費者庁が今後どう判断するか注目される事例だが、争うには時間もコストもかかる上、取消が認められたケースは多くない。消費者庁の指摘が入らないように日頃から対策を練っておくことが重要だ。

まとめ

今回紹介した二重価格はガイドラインに沿った運用が求められ、比較的専門性の高い表示だ。消費者庁がすでにガイドラインを出し、運用方法を細かく定めているため改めて確認を行うと良いだろう。その際、グレーゾーンか問題ない表示か判断出来ない場合は、消費者庁表示対策課や景品表示法に詳しい弁護士への相談を推奨する。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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