大平健城弁護士へのインタビュー「景表法における正しいNo.1表記」

2024年08月09日

弁護士プロフィール

弁護士法人ALG&Associates

大平 健城弁護士

おおひら たけき

略歴

弁護士法人ALG&Associates
https://www.avance-lg.com/

弁護士法人ALG&Associatesは、各分野の専門知識を持った弁護士が集う「総合病院型」の法律事務所。弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、本部に加え、各地に12の事務所(東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、バンコク)を構え、リーガルニーズに迅速に応対することを可能とする。従来の古い考えや方法に囚われずお客様のニーズに合致したリーガルサービスを提供することに努めている。

弁護士法人ALG&Associatesプロフェッショナルパートナー
大平健城弁護士

https://www.avance-lg.com/lawyer/lawyer_ohira.html

不動産法務、使用者側労務を中心に幅広く企業法務を取り扱う。顧客は多種多様な業界にわたり、スタートアップ企業から上場企業まで対応している。様々な業界を横断した経験から、事業そのものの適法性レビューや営業スキームの構築といった事業内容に踏み込んだ支援を行う。広告法務に関しては、LPから地上波CMの表記、キャンペーン企画のレビューなど数多くの対応実績があり、豊富な経験から安全かつ有効な広告業務をサポートしている。

本文

景表法資料の正しい見方と景表法に対する基本的な考え方

景品表示法(以下景表法)に則った運用を検討している事業者にとって、消費者庁の報道発表資料は参考資料となる。最新の措置命令を確認することで、消費者庁が問題視している表記は何かを推察できる。

しかし、報道発表資料は難解な文言も多く、景表法に対して知見のない事業者が閲覧してもどのような解釈をすれば良いかよく分からないことも多い。

今回は1から学ぶ景表法対策として、措置命令の報道発表資料の読み方と広告に対する考え方について、数多くの企業法務を手がける弁護士法人ALG&Associatesの大平弁護士にお話を伺った。

事業者が知るべき報道発表資料の読み方

消費者庁のホームページにおいては、報道発表資料として最新の措置命令が掲載される。ここでは、事業者がどのような違反行為をしたのかがPDF資料で確認出来るが、読み方にコツがある。大平弁護士は、まず報道発表資料内の「実際」を確認すると良いとのこと。

「報道発表資料には、冒頭部分の「表示内容」に景表法に違反する広告等の内容が記載されていますが、それを頭から読んでもピンとこない方も多いかも知れません。そのような時は、まず、「実際」の項目に記載されているコンテンツの実際を確認して頂くことをお勧めします。コンテンツの実際を頭に入れた上で、「表示内容」を見て頂くと、「この商品にこんな広告をしたのか」という流れで報道発表資料を読めるかと思いますので、それなりに読みやすくなるのではないでしょうか」(大平弁護士)

実際」のところをチェックしておくと、コンテンツの実際の状況を把握することができるため、「表示内容」に記載される広告に関して何が具体的に問題なのかを把握しやすい。

しかし、「表示内容」の記載だけでは問題の表記がイメージ出来ない場合もある。そのような時は、報道発表資料に添付される「別紙」を確認しておくと良いだろう。

別紙には、実際に掲載されたWebページのスクリーンショットや投稿された画像がそのまま掲載されていることが多い。

「ご自身に景表法上の知見がなく、優良誤認や有利誤認と言った概念が分からなくとも、消費者庁がどのような広告を問題視したのかが視覚的に理解出来るので、ひとまずは別紙を眺めるだけでも有意義ではないでしょうか」(大平弁護士)

景表法の知見を蓄積したい事業者は、報道発表資料に添付される別紙を確認し、どのような表記が問題となったのかを確認しておくだけでも良いだろう。

景表法を甘く見ている事業者も

景表法を適切に運用するために、事業者が講ずるべき対策がいくつかある。措置命令を定期的にチェックし、事業者自身でガイドラインを作成すれば、問題のある表記を見つけられるようになるだろう。 しかし、いくらガイドラインを適切に運用しようとしても、大前提を忘れている事業者が多いと大平弁護士は指摘する。

「過去に消費者庁の措置命令となった事業者の事案を1つずつ精査していると、「この程度なら大丈夫だろう」との発想で広告に及んだのだろうというケースが多く見られます。この原因を突き詰めていくと、「景表法を甘く見ている」ことに帰着するように思います。SNSにおける比較的ライトな広告であっても違反行為として取り締まられるケースも見られますので、どのような媒体の、どのような広告であっても、ペナルティを受ける可能性があるのだと認識頂く必要があると考えます。事業者がどんな広告でもペナルティを受け得るのだと理解して、広告を厳しくチェックして頂ければ、思わぬペナルティを受ける可能性を小さくしていけるのではないでしょうか」

また、現場でも事業者側の景表法に対する認識の甘さを感じる場面があると、大平弁護士は指摘する。

「「打ち消し表示」については、過大な期待を寄せている事業者様が比較的多い印象です。ダイエット食品や学習教材等を広告する際に、ユーザーの成功体験が有効な広告になることは理解できるのですが、その成功体験から得られる商品への印象と、商品の実際とが乖離してしまうと、やはり景表法上の問題が生じます。そこで、「個人の感想です」や「個人差があります」との記載をしておけば、広告上問題ないとお考え頂いているようなのですが、当該広告が景表法上問題ないかについては、その全体を慎重に検討する必要があり、安易な判断は危険と言わざるを得ません」

打ち消し表示はかなり前に問題として取り上げられたもので、消費者庁もどのような考え方が問題かを資料にまとめている。これを機会に閲覧しておくと良いだろう。

No.1表記に求められること

事業者がNo.1表記を適切に行う場合、注意すべき項目がいくつか存在する。当メディアでこれまで取り上げられてきたNo.1表記を運用する際に参考となる考え方は以下の通りだ。

  • 範囲、対象者、調査内容を事業者に丸投げするのではなく適切に設定する
  • 不実証広告に耐えられる根拠となる資料を用意しておく
  • 最終的な表記を確認する
  • 媒体ごとに表記を確認する

今回取材した大平弁護士は、No.1表記に対して「事業者として大前提となる考え方が重要」と説明する。

「措置命令の対象となったNo.1表記の傾向を見ていくと、顧客満足度と銘打ったアンケート調査の対象者がそもそも商品の利用者に限定されていないケースなど、当初から消費者を誤解させる意図をもって企画されたものが散見されます。小手先で商品の有利性を示すのではなく、取り扱う商品の優れたポイントを真摯に深堀りし、適切に表記に反映することが景表法に違反しない広告を作成する基本のスタンスだと思います。この考え方に立ってNo.1表記を目指すのが良いでしょう」(大平弁護士)

自社の商品が本当に優れたものであれば、それを広告するだけで消費者に正しい訴求が出来る。しかし、事業者が商品に優れた価値を見出せないままに「とりあえず何かのNo.1と言いたい」という視点で考えてしまうと、杜撰な表記に繋がってしまうのだ。

「弁護士の身分で語れる立場にはないものとは思いますが、広告宣伝は商品そのものから離れては存在しないものと考えています。「No.1」を訴求するにしても、その商品のポテンシャルに立脚したものでないと、結果として消費者に誤解を与える広告になってしまいます。商品の実際からかけ離れた広告については、いかに信頼性の高い調査機関や弁護士にリーガルチェックをしてもらったとしても、意図した形の広告にはならないものと考えます。このようなトラブルを回避するため自社商品の魅力は何か、1から見直すことが重要です」(大平弁護士)

No.1表記は恣意的に作るものではない。恣意的に消費者を騙そうとするのではなく、正々堂々と商品・サービスの魅力を見つけ出すことが重要だ。

まとめ

措置命令対象となれば、公開資料として事業者の名前が消費者庁のホームページに掲載される。これまで築き上げた顧客との信頼関係を失ってしまう可能性も全くないとは言えない。また上場を目指している事業者やM&Aを視野に入れている事業者が過去に景表法で問題があると判断されると、大きく影響を受けるだろう。景表法は大手でも違反してしまうので問題ないと捉えるのではなく、景表法違反はペナルティが大きいと捉えると良いだろう。

これからNo.1表記を目指す事業者は、措置命令を定期的にチェックし情報をアップデートしていくことが重要だ。報道資料の別紙と実際の項目を見ることで、問題ある表記は何かを確認できるだろう。また問題を避けるように表記を目指すのではなく、本当に自社の商品は問題ないのか、という視点で見つめ直すことも重要だ。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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