橋本道成弁護士へのインタビュー「No.1表記の3つのポイント」

2024年08月09日

弁護士プロフィール

如水法律事務所

橋本 道成弁護士

はしもと みちしげ

略歴

如水法律事務所
https://jwater-group.com/law/

会社が抱える様々な問題に対し、専門性の高いサービスの提供を目指した福岡の法律事務所。IPO(株式公開)、株主総会対策、労務問題、事業再編など、中小ベンチャー企業の各種企業法務に関する相談を多く取り扱う

橋本道成弁護士(福岡県弁護士会)
https://jwater-group.com/member/15.html

事業再生案件や事業再編(M&A)案件など、専門性の高い事件を担当。証券会社及び総合商社への出向も経験し、株式上場や株主総会対策の実務に触れる機会を得る。自身が生まれ育った九州・福岡の地に貢献できる仕事をしたいと考え、監査法人、税理士法人、社労士法人など専門家の集合体である如水グループに参画。

専門性の高い法的知識を提供するだけに留まらず、クライアントが必要とする会計・税務・労務等の専門知識についても、如水グループと連携しながらきめ細かくサポートできるように努めていきたいと考え日々業務に取り組む。

本文

事業者に求められる表記の「措置命令の読み方」と「3つの注視すべきポイント」とは

事業者が適切に景品表示法(以下 景表法)に則った運用を行うためには、事業者自身で、ある程度どのような表記が問題とされる表記かを把握し、措置命令を受けないためにどのような対処を講じるべきかを検討しなければならない。
弁護士や業界団体が主催するセミナーや勉強会に参加すれば、ある程度知識の構築が可能だ。事業者が知見をさらに深めたいのであれば、消費者庁が発表する報道資料を見ると良いだろう。
事業者がこれらの対策を実施するにあたり、意識すべきことがあると如水法律事務所の代表橋本弁護士は指摘する。具体的に意識すべきことは何かについてお伺いした。

No.1措置事例をチェックする際にやるべきこと

2023年度は立て続けにNo.1表記が措置命令の対象となった。措置命令を確認する際に、全体の流れを時系列ごとに並べて比較すると、共通点が浮かび上がると橋本弁護士は指摘する。
「2023年度で、No.1表記に関する措置命令で起点となっている事案は2023年8月1日のバンザンのNo.1表記に対する措置命令です。消費者庁は、バンザンが提供する役務と他社の同種役務を利用した者を適切に区別していない「調査対象の選択」について指摘しました」

ハンザンの措置命令以降、2024年2月から3月にかけて、新日本エネックス、安信頼ホーム、フロンティアジャパン、エクスコムグローバル、飯田グループ各社、エスイーライフ、SCエージェントと立て続けにNO.1表記で措置命令が出されるが、その事業者に共通点があると橋本弁護士は指摘する。

「措置命令の対象となった事業者を1つずつチェックしていくと「調査方法が適切ではなかった」という共通点があります。実際に利用したことがある者や知見のある者を対象にしたものでなかったり、調査結果を適切に引用していなかったり、ホームページの印象を聞いただけなのに、異なる内容のNo.1表記をしていたりするなど、調査方法が問題のあるものばかりです。この処分の評価は様々あり得ますが、悪質な調査会社の調査で消費者が害されないように、という判断が根底にあると考えています」(橋本弁護士)

上記のように、措置命令を1つずつ比較して精査すると、消費者庁がNo.1表記に対しどのような項目に対し問題視しているのかが分かる。では、事業者は報道発表資料のどこに注目すべきなのか。

「措置事例を見る際は、公表資料の「措置命令の概要の「対象表示に記載のある表示の概要」と「実際」とを比較すると問題が把握できます。措置命令の中でも別紙の資料が付いている事案は問題とされている表記の写真が実際に掲載されているので、知見の浅い事業者でも視覚的に把握出来ると思います」

報道発表資料をチェックする際は、別紙の資料が添付されるものを中心に確認し、どのような表記に問題があるかを把握しておくと良いだろう。

関係業界の措置命令もチェックしておく

措置命令だけでなく、関連する措置命令の資料にも目を通しておくとも重要とのこと。例えば飲食店を経営する事業者であれば、居酒屋が措置命令の対象となっていないか確認しなければならない。問題のある表記で指摘されていれば目を通しておくと良いだろう。

飲食業界で注目される措置命令が2024年7/30ファッズの措置事例だ。税抜価格の表記をあたかも税込価格のように表示していたことが問題視とされた。この措置命令は消費者庁がWEBサイトやSNSの投稿に興味関心を持ったようにも思えるが、実は以前から注目していた表記であると橋本弁護士は指摘する。

「財務省が作成した「事業者が消費者に対して価格を表示する場合の価格表示に関する消費税法の考え方」においても、税込み価格でないにもかかわらず、税込み価格であると一般消費者に誤認を与える表記については、景品表示法の有利誤認に該当する可能性が指摘されていました。この指摘が具体化されたのが本件の措置命令です。NO.1表記の場合のように、同種事案(税抜き表示に対する措置命令)について今後処分される可能性もあるため、飲食店の方を中心に、事業者の方は税込表示が徹底されているか確認が必要です」(橋本弁護士)

該当する措置命令をただチェックするだけでなく、なぜそのような指摘をしたのか、関係省庁がその見解を報道資料として残していることもある。もちろんここまで事業者が精査するのは不可能なため、気になる措置命令がある時は景表法に精通している有識者に意見を聞くだけでも良いだろう。

1ヶ月に1度は措置命令のチェックを

措置命令は事業者にとって有益な情報を得る手段であるが、措置命令の発表は不定期だ。立て続けに措置命令が発表される場合もあれば、2024年4月~8月のように全く動きがないこともある。このような場合でも、月に1度は消費者庁の発表をチェックしておくと良いとのこと。

「毎日確認する必要はありませんが、1ヶ月に1度は消費者庁がどのような発表をしたのかを確認すると良いと思います。その際、新たなガイドライン等が発表されることも考えられるので、定期的なチェックはお薦めです」(橋本弁護士)

著者の実体験で言えば、定期的にチェックをする意識をしたことで、新たな措置命令や消費者庁が主催する改正景表法の説明会(2024 8/20時点参加申込終了)を知ることもできた。1ヶ月に1度、週に1度でも効果は十分期待出来るだろう。

企業法務担当の人間がいれば、定期的なチェックや社内の法務体制の見直し等、景表法の運用を精査出来るが、ベンチャー企業は人員をそこまで配置できないことが多い。このような場合はどうすべきか。橋本弁護士によれば、顧問弁護士への相談やAIのサービスを利用する会社のWEBを見るだけでも、アップデートが期待されるとのこと。

「例えば契約書をはじめとした書類をAIがチェックするLegalOn Cloudさんが法改正などの情報を発信する契約ウォッチというメディアを見ておくだけでも意味があると思います。もちろん、分からないことがあれば景表法に強い弁護士に意見を聞くことも重要ですが、最新の情報に触れておくように意識しておくことも重要です」

景表法は時代と共に問題視とされる表記が変化するため、事業者で出来る対策は何かをある程度考えておくと良いだろう。

No.1表記を行う際に意識すべき2つのこと

No.1表記を適切に表記するためには、措置命令で指摘されている問題を1つずつクリアしていくことだ。そこで、橋本弁護士はNo.1表記では次の2つのポイントが特に重要だと指摘する。

調査会社の選定を正しく行う

自社調べによるNo.1表記はリスクを伴うため、調査機関に依頼して掲載を目指す事業者も多くいるだろう。調査会社を選ぶ際にも事業者自身で運用ルールを設定しておくこと良いとのこと。

「2023年度の措置命令をチェックしていくと、杜撰な調査を行なっている調査会社に依頼していることも1つの要因として考えられます。このような状況下で「調査会社に任せているから問題ない」という事業者の甘い認識は許されないと思った方が良いです。実績だけでなく、調査会社の調査過程を精査する体制が必要不可欠です」(橋本弁護士)

措置命令で最も重いペナルティを受けるのは事業者だ。措置命令で掲載されているような調査会社はもちろんのこと、事業者自身で選定の根拠を明確に言えるような体制を構築しておくと良いだろう。

業界の知識が表記に浸透していないかどうか

No.1表記に求められる客観的な根拠を示すことが出来たとしても、最終的な表記で重大な見落としに気づかず、問題ある表記をそのまま掲載してしまうケースもあるとのこと。
「事業者さんからの問い合わせで「この表記は問題ないでしょうか」と聞かれることがあります。その際誤った表記を指摘すると、「業界ではそう受け止める人は少ないですが」と回答するケースもありますが、これこそが注意すべき考え方です。例えばずいぶん以前の処分事例ですが、着物店が「着物一式フルセット」というサービスを提示したのに、写真で提示していた帯(や小物)が付いていないという事例がありました。これについて、着物業界では着物と帯は別物という認識があるため、という話を聞いたことがありますが、一般人は着物セットなので帯もセットの内容に含まれると思いますよね。着物業界の常識ではこのような考え方が浸透していたとしても、一般人はそうは受け止めないですし、景表法は一般消費者を保護するための法律ですので、消費者が表記を見た際にどのように解釈するかという視点が景表法では重要な視点となります」(橋本弁護士)

事業者が顧問弁護士に問い合わせをする際に、表記そのものの白黒をはっきりさせることが多いが、消費者目線に立って表記を評価せずに問い合わせをすることも多い。掲載予定の表示が問題ないかを判断するために、まずは「一般人の知らない業界常識が入り込んでいないか」という視点で表記をチェックしておくと良いだろう。

まとめ

関連する措置命令を時系列に沿って確認していくだけでも、事業者が学ぶべきことは多い。景表法は難解なものと思われがちだが、そもそもこの法律は消費者に不利益を被らないようにするものだと橋本弁護士は指摘する。
訴求力の高い広告を掲載する際に、商品やサービスの魅力を全面に押し出す思いは理解出来るが、その表記が一般消費者に対し不利益を被るような表記かを確認しておくことも良いだろう。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

その他の弁護士インタビュー

  • 早崎弁護士へのインタビュー「ステマ規制と口コミ広告の注意点」
  • 渡辺弁護士へのインタビュー「景品表示法の確約手続きとは」
  • 佐藤弁護士へのインタビュー「二重価格表示の運用」

関連コンテンツ

消費者庁インタビュー

  • 消費者庁へのインタビュー「今特に注目している表示とは」
  • 消費者庁へのインタビュー「世界初の定義とは?」
  • 消費者庁へのインタビュー「課徴金納付命令の考え方」

企業インタビュー

  • 【株式会社Helpfeel】最新AI検索で最先端を走る企業のNo.1表記への考え方
  • 【株式会社REGAL CORE】景表法対策 管理措置指針のヒント
  • 【丸の内ソレイユ法律事務所】広告審査AIツールの将来性と課題