中山恵弁護士へのインタビュー「No.1表示の違反責任」

2024年08月22日

弁護士プロフィール

弁護士法人Nexill&Partners

中山 恵弁護士

なかやま めぐみ

略歴

弁護士法人Nexill&Partners
https://nexillpartners.jp/law/

弁護士・社会保険労務士・税理士・司法書士・行政書士を有する総合法律事務所として、グループ全体でのワンストップでスピーディな課題解決が可能。
予防法務を中心とした企業法務・労務、ビジネススキームの構築やM&A・IPO支援まで、士業ワンストップグループとしての強みを活かした幅広い業務対応範囲にて顧客企業成長への貢献を目指す。

中山恵弁護士(福岡県弁護士)
https://nexillpartners.jp/law/lawyer/lawyer_nakayama/

弁護士、社会保険労務士、税理士。慶應義塾大学法科大学院修了。
2014年弁護士法人Nexill&Partners入所。
弁護士大平光代著作「だから、あなたも生き抜いて」を読み、感銘を受け、弁護士を志すことに決める。入所後から企業案件に特化し、景表法含めた企業法務全般からM&A、IPO支援、eスポーツ法務等の新しい法務分野含めて企業法務のエキスパートとして活躍中。クライアントが困ったら相談しようと思われる弁護士として信頼されるべく、クライアントの感情に寄り添った最善策を模索する丁寧な対応を行う。

本文

No.1表示に関する事業者の責任と表示の受け止め方

事業者は商品・サービスの情報を商品やWEBサイトに掲載する際に、事業者自身が表示に対し責任を持つことになる。仮に事業者が「顧客満足度No.1」という表記で措置命令対象となり、調査会社が行った杜撰な調査結果が原因であるとしても景品表示法(以下 景表法)違反で責任を負うのは調査機関ではなく事業者だ。
なぜ事業者が表記に対して責任を負わなければならないのか、九州エリアで企業法務をサポートする弁護士法人Nexill&Partnersの中山恵弁護士に話を聞いた。

表示の責任は事業者にあり

No.1表記の措置命令を確認していくと、事業者が第三者調査機関に依頼をし、その調査結果が表示したいNo.1表記と大きくかけ離れた内容であったケースが多い。

「なぜ事業者が全責任を負わなければならないのか」と疑問に思うかもしれない。その根拠となるような事例が過去の措置事例に存在する。中山弁護士によれば、ベイクルーズ判決(東京高裁平成20年5月23日)が景表法を適切に運用する事業者にとって、参考になるという。

ベイクルーズ判決とは

この事案は、販売する商品のタグに卸売業者の説明に基づき、事業者が原産国をイタリア製のものとしてズボン販売していたが、実際はルーマニア産のものであり指摘を受けたというもの。

https://snk.jftc.go.jp/DC005/A190130H17J01000003_

「この判決では、不当な表示はどのような事情があるにせよ、表示することを判断した事業者が『表示内容に関与』していれば、事業者として責任を負うと結論づけたものです。積極的に不当表示に関与していれば責任を負うのは当然ですが、他人から説明を受けてその表記をすることになった場合や、他人に表示内容の決定を委ねた場合でも、『表示内容に関与』したことになりますよというものです」(中山弁護士)

ベイクルーズ判決に基づいて考えれば、新商品を開発するにあたり、素材メーカーの説明資料に「No.1」と表記の説明があったとしても、それが事実なのか事業者自身が検証をしなければならない必要がある。

「この判決では、誤った表示について、事業者の故意過失は要件ではないという結論となりました。大切なことは「消費者がその表示に対してどのように見えているのか」ということが問題なので、他者に記載をお任せした場合でも責任を広告主が負うことになると理解しておかなければなりません」(中山弁護士)

事業者はどのような事情があるにせよ、責任を負う立場になるということを理解して表記と向き合わなければならない。

No.1表記に求められる調査レベル

No.1表記を適切に行うために、調査会社の選定や調査過程でも注意すべきポイントがある。中山弁護士は厳しいチェックをすべきだと説明する。

「No.1表記において言えば、引用時に使用する資料の根拠を元にこの分野、この職種でNo.1であることを検証しておくことも重要です。サンプルの取り方、調査方法、調査期間など細かく検証し、裁判で争った場合でも実際に検証出来るのか、というポイントが求められると思います。自分たちでも想定以上に厳しいチェックを行うと良いでしょう」

最近ではNo.1表記の引用元を口コミサイトのレビューや、業界大手と呼ばれる企業・及び団体が発表したレポートを使用するケースも多く見られる。このような資料をNo.1表記の根拠となる資料として引用する際も注意すべきポイントがあるとのこと。

「引用に第三者が作成したデータやレポートを活用する場合、その引用元を辿っていった結果、実在する文献や調査結果に辿りつき、内容を閲覧して検証しうる物になっていなければ、適切な引用とは言えません。統計情報として掲載されていても、誰がどのような方法で統計情報を取得したのか等の根拠が不十分なものや怪しいものはNo.1の表記として不適切と思っていただいても構いません」(中山弁護士)

実際に著者が調査をした事業者の中には、明確な引用元を示さずに販売売上No.1と表記しているケースがあった。措置命令では第三者機関の調査が問題視されているが、このような表記に対しても厳しくチェックをしておくことが重要だろう。

営業職に求められる景表法の考え方

景表法を正しく運用するのであれば、表記に関わる担当者はなるべく情報を共有した方が良い。特に営業職に対して景表法に対する知識の共有は不可欠だ。実際に中山弁護士の元には営業職の担当者から商品の表記に対して問い合わせがあるケースが多いとのこと。

「キャッチーなワードを使った表記は、時に消費者に誤解を与えてしまうことも考えられます。このような表記をしている商品は、売上が飛躍的に伸びたタイミングで措置命令の指摘が入ることも珍しくありません。キャッチーな表記は営業担当者が景表法の知識をもう少し身につけていれば、未然に防げるのではないかと思います」(中山弁護士)

営業職の知識の蓄積だけではない。事業者が業界の情報を知りすぎていると、表示に対し消費者の受け止め方を考えずに掲載するケースもある。

「商品の背景事情や魅力について、この程度の情報を載せていれば問題ないと事業者が解釈していても、全く情報を知らない一般消費者がその表記を見たときに全く違った受け止め方をすることもあります。一般消費者の情報格差や受け止め方を事業者が把握しておくためにも、事務スタッフや親族や知人等、商品の前提情報を全く知らない人がどう受け止めるかについての反応を見ておくことも重要だと思います」

実際に商品の魅力を説明できていれば、行きすぎた表記をする必要はない。一般消費者が理解できないような不明確なNo.1表記で訴求をするのではなく、商品・サービスのどのような部分がNo.1と思えるのか、その理由を突き詰めて考えておくことが重要だ。

新たなビジネスを始めるときこそ徹底した調査が必要

表記でよくあるトラブル事例として、新規参入先の業種で表記のミスがあり指摘を受けるケースも珍しくはない。新規業種への参入時にも注意が必要だと中山弁護士は解説する。

「新たなビジネスを始めようとする場合は、一般消費者がどういった受け止め方をするかはある程度調べておく必要があります。大規模な調査をする必要はありませんが、取引先、知人に意見を聞いて感覚を蓄積して、適切な広告とは何かを構築していくことも重要です」

競合他社を調査し表記の中身を調べておくことも重要だが、競合他社の掲載しているものが実は誤っているものである可能性も高い。表記を見て商品の購入やサービスの加入等を判断するのは一般消費者だ。一般消費者がその表記を実際にどのように見て感じるかを確かめておくと良いだろう。

まとめ

商品・サービスの訴求をするための広告は、事業者が最終的に判断した情報を元に構成される。どのような経緯でその広告を製作したかは事業者によって異なるが、情報の受け止め方の基準は一般消費者だ。
消費者庁が見る視点は「消費者に不当な利益を与えている表記かどうか」で様々な広告の表記をチェックしていることを、念頭に置いて運用を検討するのが重要だ。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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