弁護士プロフィール
湊総合法律事務所
野坂 真理子 弁護士
のさか まりこ
湊総合法律事務所
https://www.kigyou-houmu.com/introduce/
上場会社から中小企業・学校・病院・その他団体など200社以上の企業と顧問契約を締結。景表法だけでなく、契約書のチェック業務、日常の経営判断の適切な法的サポート、至急の経営課題への対応を実施。企業法務案件を主力として、企業間紛争、従業員や取締役との法律問題、不動産事件、医療事件、債権回収、事業承継、知的財産事件などを取り扱う。
野坂 真理子弁護士(東京弁護士会)
https://www.kigyou-houmu.com/profile/#nosaka
湊総合法律事務所ジュニアパートナー。早稲田大学法学部卒業。企業法務、広告法務に精通し多数の企業向けセミナーも実施している『こんなときどうするネット 会社で使える書式と文例』(共著、第一法規、2016年)、「労働条件の不利益変更のトラブルはこうして防ぐ」月刊企業実務2009年5月号)、「退職者の他社への再就職・独立をめぐる問題と解決策」ビジネストピックス(みずほ総合研究所)ほか多数執筆。
書籍
本文No.1表記の運用ポイント〜チェックリストとフローチャートで魅力的な広告を
景品表示法(以下景表法)は時代と共に変化するものだ。消費者庁の動向を注視した上で適切な対策を議論しなければならない。適切な運用に重きを置くと広告自体の魅力が失われてしまうため、適切な運用が悩ましいとも言える。
広告として攻めた表記に対し出来る対策は何かを改めて確認するため、今回は企業法務案件に精通している湊総合法律事務所の野坂真理子弁護士に話をお伺いした。
No.1表記広告を魅力的にするために知っておくべきこと
No.1広告として魅力を高めるのであれば、景表法について正しい知識を持つことが重要だ。正しい知識を持つことで、リスクのある表記かそうでないかを判断出来るだろう。そのためには景表法で最も重いペナルティを課されるのは事業者であることを知らなければならない。
「No.1の表記を希望する事業者のお話を聞くと、調査機関が正しい表記を行っていると説明をしているので、そのまま掲載をしても事業者は責任を問われないと解釈しているケースも多く見られます」(野坂弁護士)
景表法違反で責任を負うのは事業者だ。消費者庁が発表したNo.1に関する措置事例を確認しても、杜撰な調査を実施した調査会社の名前が資料として示されていることはあるが、事業者以上に重いペナルティが科されるケースはない。
「事業者が相当な注意を尽くしていたと言える状況であれば課徴金を賦課しないとの免責の規定はありますが、「このNo.1表記は調査機関に依頼して、調査機関から使用できると言われたので表示している」という説明では、相当な注意を尽くしていたとは言えません。外部機関が提示したデータが正しいと言われても事業者自身である程度判断しないといけないという認識を持っておく必要があります」(野坂弁護士)
事業者自身で調査会社が実施したNo.1調査が、どのような過程で実施されたかをある程度把握しておく必要がある。事業者は調査を開始する前に事業者と適切な打ち合わせをすべきだと野坂弁護士は指摘する。
「事業者が調査会社に調査を全て任せ、その調査が終了した後に、No.1表記として適切な調査ではないのではないかと感じたとしても、その段階では是正を申し入れづらい状況となることも考えられます。予めどのような調査方法で、どのような範囲で実施するのかといった説明を調査会社から受けて、その過程が適切かを事業者自身でチェックしておくことがスムーズだと思います」(野坂弁護士)
打ち合わせ時に調査の中身を示さず「〇〇No.1という表記であればうちで証明が可能です」といった場合は注意が必要だ。改正景表法が施行されるにあたり、一部の調査会社では「No.1表記に問題があれば消費者庁から指摘を受けた場合、返金を実施する」といった制度を提案しているが、このような制度には注意が必要だ。
「調査が入り措置命令対象となった場合、消費者庁のホームページにも掲載されますし、広く報道されることもあるため、課徴金の問題だけではなく企業としてのレピュテーションリスクが大きいといえます。」(野坂弁護士)
事業者が将来的に上場やM&Aなどの予定がなければ、返金制度は魅力的かもしれない。しかし、そうでない場合は「消費者庁から処分を受けた問題のある事業者」として企業としての価値が下がってしまうことを覚えておく必要がありそうだ。
事業者が最低限知るべきNo.1表記の運用ポイント
事業者がこれからNo.1や初の表記を目指すのであれば、消費者庁が定めた関連するガイドラインを確認しておくと良いだろう。
1つは他社との比較をする際に必要な要件とは何かを紹介した「比較広告※1」。もう1つは消費者庁が措置命令を実施する際に最終手段として活用する「不実証広告規制※2」だ。
これらを元に事業者内で活用するガイドラインの土台を作成すると良いだろう。その際「チェックリスト」「フローチャート」2つの資料を最低限作成しておくと良いと野坂弁護士は考える。
「チェックリストでは、特に最上級表現や打ち消し表示、効果効能に関する表示など景品表示法違反となりやすい表記について、必要なエビデンスがあるか、エビデンスに見合った適切な表記となっているかについてチェックできる内容を含めておくと有用です。消費者が誤認しやすい表記について注意を払うことができ、事業者全体に注意を促すことができます。フローチャートでは、どの段階で誰がチェックするのかといった体制を定めます。複数名でチェックするような段階的なチェック体制を構築しておくことが理想的です」(野坂弁護士)
また新たにガイドラインをアップデートする際は、現在進行形でHP等に表示しているものに対しての対策も検討しておくと良いとのこと。
「新規のキャンペーンや新規広告は印刷のアップロード時期の関係で十分な時間が取れない可能性があります。リスクが内在したまま実施されている場合もあるので、過去に実施したキャンペーンを精査して本当に問題がなかったかどうか一度チェックをしておくと良いと思います」(野坂弁護士)
No.1表記で厳しく指摘されるのは事業者だという認識を持った上で対策を検討しておくことが良いだろう。
※1比較広告
他社と比較し自社が有利であることを示す際に満たさなければいけない条件を記載したガイドライン
※2不実証広告規制についての説明
No.1であることの根拠となる資料を提示出来なければ措置命令・課徴金納付命令となる最終手段とも言える制度
運用時の注意点
適切なガイドラインを構築しても、消費者庁の調査が入る場合も考えられる。このようなトラブルを回避するために、万が一のことが発生した際の対処方法を検討しておくと良いと野坂弁護士は指摘する。
「消費者庁から指摘が入る可能性が高い問題のある表記が発生した際、いつのタイミングからその問題のある表記が運用されていたのか、事業者自身が分からないことがあります。いつから問題のある表記が起きたかを検証できるよう、誰がその表記を担当したのか責任者を明確に決めてチェック体制を構築することは重要だと思います。担当者を明確にすることで、広告やホームページに関する最終チェックがどのように実施されたたかが分かるので、未然にトラブルを防ぐことが可能です」
さらに、事業者自身が定期的に景表法の情報をアップデートすることも重要だ。
「チェック体制が形骸化しないよう新人研修のタイミングで見直したり、社外講師や顧問弁護士を招いて景品表示法の情報を学ぶといったアプローチで広告担当者、法務部員、経営者自身における広告に関するコンプライアンス意識が強化されるのではないかと思います」
専門家を招き勉強会を開くメリットとして、消費者庁が発表した措置命令のどこが問題なのかを丁寧に解説してもらえる点だ。措置命令によって消費者庁のメッセージを読み取ることが出来るだろう。
客観的なチェックを実現するためにできること
複数名でチェックをする理由は「客観的な評価」を実施するためだ。その理由は評価方法が感覚的なものが起因しているからだ。「私たちが事業者様からの依頼で表示をチェックする際、その内容によっては、自分の感覚が一般的な消費者と整合しているかどうか、より慎重に判断した方が良いのではないかと感じることがあります。No.1や初の表記では根拠となる資料があるため、検証結果と表記との整合性がきちんと取れているかは判断が出来ますが、消費者の目からみた時に表現が過度なものになっていないかどうかは、感覚的な問題です。
専門家ですらも頭を抱えるような問題なので、表記の良し悪しを1人だけで判断するのは危険だと思います」(野坂弁護士)
1人の担当者に判断を委ねてはいけない点は、チェック担当者が消費者の受け止める感覚とズレが生じていることも考えられる。複数名でチェックをすればズレを解消し、正しい表記かを判断することが可能だ。
No.1や初の表記は他社と差別化を図る表記だが、消費者と事業者との間に受け止め方のずれがあると指摘を受ける可能性も十分考えられる。このような事態を避けるためにできることは、客観的なチェックができる体制を構築し、不安であれば弁護士を始めとした有識者に相談ができる環境を作ることだ。
本インタビューの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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2024年07月30日





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