奥田智子弁護士へのインタビュー「No.1広告チェック」

2024年07月10日

弁護士プロフィール

いぶき法律事務所

奥田 智子弁護士

おくだ ともこ

略歴

いぶき法律事務所
https://ibuki-lawoffice.com/

「依頼者のニーズに迅速かつ的確に応え、依頼者といぶき法律事務所との相互の信頼関係を築き上げていくこと」をモットーに事業を展開。メンバーが得意分野を生かしつつ、必要に応じてチームで対応し、税理士、公認会計士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、建築士及び司法書士などとの緊密な協力関係の構築にも努める。

奥田智子弁護士 大阪弁護士会
https://ibuki-lawoffice.com/attorneys/

企業法務では契約書レビュー等日常的な業務支援の他、下請法、特定商取引法等の取引規制法遵守の相談、薬機法・景品表示法等各種広告表示規制の法務支援を取り扱う。法人倒産、個人の債務整理、労働問題、欠陥住宅問題、交通事故、相続、離婚など分野に囚われることなく様々な案件にも取り組む。

本文

仮想資料を活用したNo.1表記の景表法対策

景品表示法(以下 景表法)に適したNo.1や初表記を行うためには、ホームページの定期点検、広告チェックのガイドラインなど、表記に関連したチェックを事業者が実施しなければならない。1つでも見落としてしまうと景表法違反に該当する可能性がある。

事業者が景表法を適切に運用するために社内での意識改革が必要不可欠となる。事業者に求められる意識改革とは何かを聞くため、多数の企業法務に携わるいぶき法律事務所の奥田智子弁護士にお話を伺った。

No.1表記における広告表記で注意すべきこと

No.1表記であるが、消費者庁が問題の表記と捉え、措置命令対象が増加した。昨年度のNo.1表記の措置命令を見ると全体で9件、14の事業者に行政処分が下った。
その多くが、「満足度No.1」、「〇〇が選ぶおすすめしたいNo.1」など、商品やサービスを実際に利用したことのある利用者に対しアンケートを実施した結果であると受け取れる表示が、対象となっていた。

「消費者庁の発表によれば、措置命令になったNo.1表記には、調査会社からの働きかけにより事業者が表示をしているものが多く、その中には、調査会社が事業者に都合の良い内容の結果が出るよう恣意的に調査を行った結果を用いているものがあったということです。また、「満足度No.1」という表示についても、実際の利用者へのアンケートではなく、商品やサービスのイメージを尋ねた結果をもって表示する事例があったということです。そのため、調査会社任せにするのではなく、事業者自身が、No.1表記の根拠となる調査方法や調査内容についてしっかりとチェックをしていれば、このような杜撰な調査に基づく違反表示は防げたはずです」(奥田弁護士)

No.1の表記では、「どの領域の商品における何のNo.1なのか」、「地理的範囲」、「いつの時点の調査結果なのか」といった形で実際の調査内容と表記の整合性をチェックしていく必要がある。

例えば、健康食品のパッケージに「業界No.1」とだけ記載をした場合、この表記を見た一般消費者は、「この商品が食品の中で最も優れている商品」と受け止めてしまい誤解を与える恐れがある。

正しい表記をするのであれば、「売上のNo.1」、「通信販売の注文数のNo.1」、「商品に含まれる特定の成分の含有量がNo.1」といった形で、何のNo.1かを示さなければいけない。また、「業界」もどの業界を指すのかをより明確にする必要がある。これらのチェックには、消費者がその表記を見てどう理解するか、という視点が重要だ。

言い過ぎた表記かをチェックする

No.1の表記を含め広告表現については、最終的な表記がどのようになったのかを確認することも重要だ。その際「本当にこの表現は言えるのだろうか」と疑いの目を持つ必要がある。

「広告表現は事業者の商品やサービスに対する思いが入ってしまうため、気をつけていても言い過ぎた表現、つまり、客観的に謳える範囲を超えた表現になってしまう恐れがあります。そのため、確認する際には、言いすぎた表現になりやすいものだという認識を持って客観的な視点でチェックをする必要があります」(奥田弁護士)

仮にNo.1表記として適切な調査結果が出たとしても、掲載予定の広告の表現に問題があれば、誇大広告とみなされる恐れがある。No.1表記が調査結果よりも言いきすぎた表現となっていないか、表記をチェックしなければならない。

「販促物は、通常、商品企画や開発の際に作成した社内資料を基に訴求力のある表現を考えて制作することが多いのではないかと思います。しかし、商品企画や開発段階で景表法を意識することはほとんどありません。そうすると、企画段階に用いられた景表法を意識しない表現が、そのまま販促物に利用されてしまうことになります。そのため、法務担当者だけでなく、商品やサービスの企画開発、営業に携わる各担当者が不当表示のルールについて正しい知識を持つことが望ましいです。」(奥田弁護士)

行きすぎた表記にならないよう、企画開発段階の資料を活用するのであれば、「この表現は広告表現としては改良が必要だ」と事業者内で検討できる体制が求められるだろう。そのためには景表法に対する意識を強化させ、法令違反によるレピュテーションリスクについて担当者全員が認識していることが望まれる。

仮想資料でチェックをする

事業者内で適切なチェック体制を構築しても、主観的な目線で広告を評価してしまう恐れがある。客観的な視野を持ち適切な評価を実施するために出来ることは、自分ごととして捉えることだ。

「不当表示について座学で学ぶことも大切ですが、それに加えて意識改革のための研修としてお薦めするのが、事業者が実際に手がける商品やその企画資料を元に広告表現を作成するグループワークや、違反表現あるいはグレーな表現を含む仮装販促物について広告表現を確認してもらうといったグループワークです。実際の事例をもとに具体的な広告表現を考えることで、不当表示についての理解を深めることができます。」(奥田弁護士)

いぶき法律事務所では景表法の企業法務を強化したい事業者向けに商品・サービスの内容応じた研修や広告表現のチェック体制整備支援を実施している。グループワークは、景表法を実践的に学ぶことができるだけでなく事業者内の意識改革にも大きく貢献をするアクションだ。研修を検討している事業者は、ワークショップなどにも対応している弁護士事務所や専門機関に打診をすると良いだろう。

全媒体の広告を見直す

グループワークを実施し、景表法に対する意識の強化が可能となれば、事業者自身が必要なフローチャートやチェックリストの構築ができるようになるだろう。
しかし、奥田弁護士はこれ以外にも行わなければならないことがあると指摘する。

「事業者がよく陥りがちなミスとして、掲載予定のすべての販促物をチェックせずに広告を掲載してしまうということがあります。最も情報量の多い販促物だけをチェックするのではなく、掲載予定の販促物は全て確認しなければなりません。その理由は広告媒体や種類によって、事業者が無意識に表現を取捨選択していることがあるためです。販促物毎に必要な情報を正しく記載し適切な表現となっているかを確認しておくことも適切な広告運用では求められます」(奥田弁護士)

事業者がA4チラシを作成するために広告データを作成したとしよう。当然、広告データ作成時には不当表示にならないようチェックが行われている。しかし、このデータをInstagramにそのまま流用しようとした場合、正方形画像に加工する過程で「この表記はデザインの邪魔になるのでカットしても大丈夫」と勝手に表記を変更してしまうと、その変更過程で、適切であった表現が不当表示に変化することがあり、景表法違反に該当する危険が生じる。

広告表記は最終的な掲載物で評価されるため、元データがチェックをクリアしているので問題ないと考えるのではなく、加工した画像も各媒体で誤解を与える表記になっていないかどうか、必ず検証しておくと良いだろう。

まとめ

景表法は抽象的な表現が多く、ガイドラインやフローを作成しても自分ごととして落とし込む必要がある。今回紹介した奥田弁護士が推奨する「仮想広告を作る」工程は、景表法を適切に運用するにあたり必要不可欠なアクションだ。

No.1表記は他社との差別化を図るために行う表記だからこそ、言い過ぎの表現となっていないか、事業者自身が確認しておくことが重要だ。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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