中野秀俊弁護士インタビュー「景品表示法対策」

2024年05月31日

弁護士プロフィール

グローウィル国際法律事務所

中野 秀俊弁護士

なかの ひでとし

略歴

グローウィル国際法律事務所

https://growwill-law.com/

元IT経営者であり会社経営者の中野秀俊弁護士により開設。相談件数は1000件以上。スピーディーな対応のみならず、経営者目線で経営戦略等のアドバイスも可能。

中野秀俊弁護士(東京弁護士会)

https://growwill-law.com/

大学時代、システム開発・インターネット輸入事業を起業。月商400万円以上の売上を上げるも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。その経験から弁護士を目指し司法試験を突破。

本文

『グローウィル国際法律事務所 中野秀俊弁護士へのインタビュー』「事業者が最低限備えておくべき景品表示法に関する対策とは」

消費者庁がこの数年「No.1表記」に関する表記に対し、景品表示法(以下景表法)に則った運用を実施しているか厳しいチェックを行っている。
「No.1」や「初」など自社の優位性を示す表記を行う際に、客観的な調査資料が必要不可欠であるが、調査会社、弁護士事務所など自社以外との連携も必要だ。
一方で調査会社や弁護士事務所と連携を取っている事業者の中には景表法違反に該当してしまう事業者も存在する。
事業者はどのような意識を持てばトラブルを回避できるのかについて、IT企業の顧問弁護士を多数担当するグローウィル国際法律事務所の中野秀俊弁護士に話を聞いた。

景表法対策を実施するために行わなければならないこと

景表法違反に該当した場合に責任を問われるのは事業者だ。仮にトラブルを回避するために調査会社に依頼をしても、調査過程に問題があれば景表法違反に該当し、措置命令の調査対象になる可能性も十分に考えられる。

そのため、事業者自身が表記違反に該当しないよう、対策を検討しなければならない。重視すべきポイントは4つの項目だ。

  • 事業者自身で景表法について理解を深める
  • 事業者として回避したい問題を考える
  • 調査会社に依頼する場合はチェックリストを作成する
  • 弁護士をどの程度利用をするか

4つの項目について1つずつ解説していこう。

事業者自身で景表法について理解を深める

事業者が景表法について全く知識がない状態であれば、必要最低限の知識を早急に身につけるべきだ。景表法に強い弁護士や調査会社に任せれば問題を全て解決してもらえるといった認識ではなく、事業者自身も景表法について理解を深めなければトラブルに巻き込まれると理解しておこう。

なぜ事業者自身が景表法への理解を深める必要があるのか。中野弁護士によれば「何も知らない状態で調査会社や弁護士に相談をしても、事業者が解決したい問題を解決できない可能性があるからです」とのこと。

弁護士事務所が主催する研修会に参加する、消費者庁が発表する報道資料に目を通す、ネットでリサーチするなどのアプローチでも構わない。「斜め読みでも構わないので、調査会社や弁護士に的確な質問を投げかけるために知識を身につけることが重要です」(中野弁護士)。

景表法について何をすべきか分からない事業者は、景表法の知識を身につけることから始めると良いだろう。

事業者として回避したい問題を考える

2つ目は事業者が景表法に関する様々なトラブルの中で回避したい問題は何かを明確にしておくこと。中野弁護士によれば、「景表法違反は消費者庁がいきなり事業者に対し処罰を実施するケースはなく、調査等の段階を経て措置対象や課徴金命令納付の対象になります」とのこと。

改正景表法では、消費庁が事業者に対し措置命令処分を決定する前に、事業者に対し確約手続の案内がされる。この制度を利用すると、事業者は景表法違反に該当する表記を取り下げ、改善することで措置命令・課徴金納付命令を回避できる。

「確約手続は救済措置の役割もありますが、公表リスクもあります。事業者が展開する事業内容次第では信用失墜に繋がる可能性があり注意が必要です」(中野弁護士)

では事業者は公表リスクに対してどのように捉えれば良いのか。「どの程度の対策を実行するかは事業者によって異なります。自分達はどこに重きを置くかを考えて景表法対策を検討すると最適解が見つかるかもしれません」(中野弁護士)。

事業者が問題ないと考えているのであれば、最悪の場合は確約手続を利用すると考えても良いが、公表を回避したいのであれば対象とならないような厳格な対策が必要になるだろう。

調査会社に依頼する場合はチェックリストを作成する

事業者が調査会社に調査を依頼しNo.1や初の表記を目指す場合は、自社で調査会社選びのチェック項目をリストアップしておくと良いだろう。このことを推奨する。チェック項目は事業者の視点によって微妙に異なるが、中野弁護士によれば以下の3つの項目はどの事業者でも最低限チェックすべき項目とのこと。

  • 管理体制の確認
  • 調査過程や結果に対して説明をしてもらえるか
  • 調査項目を一度社内で確認する

重要なポイントは調査会社を客観的に評価できるかという点だ。実績が豊富な調査会社の中には、打ち合わせ時に恣意的なアンケートを元にNo.1調査を実施するケースもある。
調査会社からの提案を鵜呑みをするのではなく、事業者自身で調査会社の設定した設問について本当に問題ないか?を確認することも重要だ。事業者自身が調査過程に対して客観的な評価が出来るようになれば、実態とかけ離れた調査を防ぐことが出来るだろう。

弁護士をどの程度利用するか

景表法に精通している弁護士と連携すると、No.1や初を適切な表記として掲載できる可能性が高くなる。しかしベンチャー企業の事業者の場合、景表法のためだけにわざわざ顧問弁護士を雇うことに抵抗を感じる場合もあるだろう。このような場合はどうすべきか。

中野弁護士によれば、「頻度に合わせて利用するかどうかを検討するのがお薦めです。単発であれば相談ベースで良いと思いますが、頻繁に利用するのであれば顧問契約がお薦めです」とのこと。No.1や初等の表記をした商品やサービスを頻繁にリリースする事業者であれば、顧問契約のメリットは大きいものの、ホームページの開設やリニューアルのみでNo.1や初を表記する場合は相談でも良いだろう。

続けて弁護士選びでも注意すべきことがあるという。「すべての弁護士が景表法に精通している訳ではありません。景表法はどちらかというとマニアックなジャンルです。景表法に対してどの程度知見がある弁護士かを見極めなければなりません」(中野弁護士)

消費者庁とやり取りをした経験があったり、実際に相談をした際に景表法に対して適切に回答できるかどうか、事業者自身が調べなければならない。知見のある弁護士を見分けるためにも景表法に対してある程度の知識が事業者にも求められるだろう。

中野弁護士が考えるNo.1の表記基準

最後に、中野弁護士が常日頃から考えているNo.1表記に関するチェックポイントを紹介しよう。

  • No.1調査を実施する際は恣意的にならないよう注意する
  • サンプル数は調査対象によって検討する
  • 情報を常にアップデートする

中野弁護士によれば「No.1表記に関する基準の見解は様々ですが、過去の表記がNGになることもあります。そのため事業者の景表法に関する嗅覚が重要になります」とのこと。

例えばアンケート調査ではサンプル数を多くすれば良いと考える事業者もいるが、消費者庁はサンプル数だけではなく、どのような対象者にアンケートを実施したのかもチェックしている。事業者が過去の措置命令を念入りにチェックしていれば、サンプル数だけでなく質問対象者の精度をどのように向上させるかを考えるだろう。

No.1表記に関する調査は、事業者自身で客観的に判断する必要があり、思い込みで調査を進めてはならない。「この表記が少しでも大丈夫かなと思った時に、ブレーキをかけることも重要です。微妙かもしれないと感じた表記に対し、そのまま調査を実行せず、一旦立ち止まって冷静に判断できるかも事業者としては求められる視点です」(中野弁護士)

中野弁護士が紹介した調査過程でチェックすべき項目から、事業者の危機意識が最も重要なように窺える。危機意識を持つためにも、日頃から景表法に関する知識を蓄積することが、最も重要な対策であると言えるだろう。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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