2024年09月30日
海外企業の信用調査(与信調査)はなぜ重要なのか?
海外企業の与信調査の方法は、基本的には国内企業を対象とした信用調査とあまり違いはありません。ただ、海外ならではの注意点や意識すべきポイントも多数存在します。
今回は、海外企業の与信調査が必要な理由や調査を行わない場合のリスク、信用調査会社を利用した時に得られる情報などについて詳しく解説します。
①海外企業の信用調査(与信調査)の必要性
②海外企業の信用調査(与信調査)の重要性と実施しないリスク
③海外企業の信用情報を調査する方法と得られる情報
本コラムは、市場調査業界で多くの実績を誇る未来トレンド研究機構が監修しております。
情報収集の重要性が、日に日に増している昨今、少しでも皆様のお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。
目次
信用調査(与信調査)とは?
信用調査(与信調査)とは、企業や取引先の財務状況、経営状況、信用履歴などを分析し、その企業が取引相手として信頼できるかどうかを判断するための調査のことです。企業調査と呼ばれることもあり、「安全に取引ができるか」「どれくらいの取引額までなら大丈夫か」を判断するために契約を締結する前や、契約更新前の見直し時などに調査をするのが一般的です。
取引に伴うリスクを未然に防ぐために、海外取引だけでなく国内取引においても与信管理は欠かせません。企業間での取引は掛けで行われることも多く、リスク管理をしっかりしないと債権が回収できなくなる恐れもあります。
特に海外企業との取引ではその国の経済状況、法制度、為替リスクなど国内とは異なる要素が絡むため、より慎重な調査が必要です。
国内企業と海外企業の信用管理の違い
国内と海外では信用管理における方法やリスクなど異なるポイントが多数存在しています。こちらでは、国内企業と海外企業の信用管理の3つの違いをご紹介します。
①情報の透明性と取得難易度
国内では企業情報の開示が比較的進んでおり、信用調査会社や商業登記情報などから容易に情報を得られます。しかし、国によって情報開示のルールは異なり、入手が難しいことも多いため、専門の調査会社に依頼する必要なケースも少なくありません。
②法規制の違い
海外では国ごとに法制度が異なるため、契約内容や債権回収の手続きが複雑になる可能性があります。国ごとの法規制に対応するため、海外に詳しい法律専門家、あるいは現地のプロフェッショナルのサポートを利用するのが一般的です。
③文化・言語の壁
国内では経営者同士の信頼や肌感覚でのリスク判断も可能ですが、海外では異文化や言語の違いによって意思疎通が難しくなり、リスクを見落とす可能性もあります。
海外企業の信用調査が必要な場面
海外展開を行う際、信用調査が求められる場面は多岐に渡ります。特に代表的な3つのケースについて見ていきましょう。
①海外法人の設立
現地法人を設立する際、現地のパートナー企業や取引銀行とのパートナーシップ締結は必ず行います。その企業や金融機関が信頼できるのか、選定の時点でしっかりと調査しておきましょう。
②海外販売・ECサイト運営
海外に店舗を構えず、ECサイトの運営や現地代理店、サプライヤーとの取引をする際にも信用調査が必要です。相手企業の財務状況や市場での信用度などを調べることで、不良在庫や未払いリスクを避けることにつながります。
③海外事業展開と取引開始
新たな市場に進出する際、予測外のリスクを減らすため、取引先のバックグラウンドをしっかり把握しておく必要があります。現在はより多様な海外進出の形がありますが、いずれの場合でも現地企業と信頼性を築いて自社が成長するためにも、未払いや契約不履行などのトラブルを避けるためにも信用調査は欠かせません。
海外企業の信用調査の重要性
海外との取引で信用調査を怠ると、予期せぬリスクにさらされる可能性が高まります。現地企業の財務状況や支払能力を把握することは、取引が成功するかどうかの大きな鍵を握ります。加えて、信用調査を行うことで取引先の信頼性を確認できるため、健全なビジネス関係の構築が期待できます。
ここからは、なぜ海外企業の信用調査が重要なのか?その理由について詳しくご紹介します。
- 取引機会の少なさ
- 感覚的危機管理の難しさ
- 「信用状決済」や「前金取引」の減少
- 直接取引の機会
取引機会の少なさ
海外との取引は国内に比べて機会が限られており、国内企業との取引と比較して契約締結までに直接商談できる機会も少ないです。また、一度の商談で信頼関係を築くことは非常に難しいのに加え、得られる情報量にも限度があります。
そのため、取引前に信用調査を行い、初期段階で相手企業が信頼できるのか、どのようなリスクがあるのかを知ることは海外で事業展開する上で非常に重要です。
感覚的危機管理の難しさ
国内取引では担当者が経験や直感にもとづきリスクを察知することができますが、海外では文化や市場の違いから日本と同じような感覚的な判断が通用しない場面が多々あります。
そのため、客観的な信用情報に基づいた管理が欠かせません。
「信用状決済」や「前金取引」の減少
海外取引では、信頼関係が構築されるまで「信用状(L/C)」や「前金取引」が用いられることも多くありました。信用状決済は金融機関が支払いを保証する形で、前金取引は商品やサービスの提供前に支払いを行う取引方法です。この2つの取引は未履行のリスクを避ける手段として効果的でした。
しかし、時代の変化や国際競争の激化、対外的な日本企業の優位性が低下したことにより、現在は海外企業との取引でも商品の提供後に請求書を送って後払いをする掛け売りでの取引が一般的になっています。
信頼関係がない状態での掛け売りは未回収のリスクもあるので、取引前には必ず信用調査を行う必要があります。
直接取引の機会
従来の中小企業の海外取引は海外に現地法人がある日本の大企業が相手になることが多く、海外企業との契約をする機会はそれほど多くありませんでした。
しかし、日本国内の市場の縮小や、大手メーカーの海外市場での不振、EC等オンライン販売の需要急増などが影響し、中小企業が直接海外企業と取引をする機会も増加しています。
中小企業やスタートアップ企業の場合、規模が大きくなくても未回収などが発生すると会社の経営に大きな影響を与えかねません。信用調査はそうしたリスクを抑えるためにも重要な工程です。
信用調査しなかった場合のリスクとは?
信用調査を実施しない場合、海外企業との取引において以下でご紹介するような重大なリスクに直面するおそれがあります。
未払いリスクの増加
相手企業の財務状況を把握していないと、支払いが滞るリスクが高まります。特に海外取引では法制度の違いもあり、債権回収が難しくなる可能性もあります。
取引相手の倒産リスク
取引開始後に相手企業が突然倒産する可能性もあります。事前に財務状況や経営の健全性を確認することは、損失を被るリスクを抑えるために欠かせない工程です。
詐欺リスク
十分な信用調査を行わずに契約を進めると、詐欺的な行為に巻き込まれることも考えられます。特に新興市場では、虚偽の情報をもとに信用を得たり、取引をしようとする悪徳事業者も多いです。
信頼の欠如による関係悪化
信用調査を怠ることで、取引の初期段階からミスコミュニケーションや信頼の欠如が発生しやすくなり、ビジネスの長期的な成功に悪影響を与えます。
信用調査はこうしたリスクを未然に防ぎ、安心して取引を行うための重要なプロセスです。海外のビジネス環境における不確実性を軽減し、安全な事業展開を目指しましょう。
海外企業の信用情報において調査すべき情報
海外企業と信頼関係を築き、リスクを最小化するためには、詳細な信用情報の調査が重要です。取引を円滑に進めるには、企業の経営実態や今後のビジネス方針について複数の資料から情報収集して判断するのが一般的です。
調査の対象となる情報は、企業から直接取得できる「直接情報」と証券取引所などの第三者機関から得られる「間接情報」の2つに分けられます。こちらでは、直接情報と間接情報の種類について解説します。
直接情報
自社の取引データや取引先企業が公開している書類等から取得できる情報は、信用調査の中でも重要な要素です。公式な文書や記録を確認することで、企業の内部状況を正確に把握し、潜在的リスクを判断できます。
決算書
決算書とは、過去の業績や財務状況を記録した文書です。決算書を確認することで、企業がどのような基準で取引を進めているのかがわかります。
ただし、資料として参照するのは会計監査済のものにしましょう。監査されていない書類は粉飾や虚偽記載されている可能性があります。また、より高精度な信用調査をしたいときは決算書だけでなく、勘定科目ごとの解説が記載されている説明資料も取得しましょう。
事業計画書
事業計画書は、企業の中長期的な目標とそれらを実現するための戦略が記された資料です。計画が現実的であるか、市場や競合についてきちんと調査・分析されているかを検証することで、今後の成長性を見極められます。
たとえば、業界の動向や市場規模に基づいた予測が含まれていなかったり、あまりにも楽観的すぎる予測だったりすると、その計画は信頼性が低いと判断される可能性が高いです。
資金調達計画や新規事業の展望が具体的かつ、現実的なデータに即した内容であれば、取引相手としての価値が高いと判断できるでしょう。
過去の取引
すでに自社と取引したことがある場合は、過去の取引履歴を確認しましょう。取引の記録で信用調査に使える情報としては、
- 与信限度額
- 決済条件
- 債権残高
- 契約残高
- 過去支払履歴
などがあります。
自社の記録のため、取引先が公開しているものよりも信頼性の高い情報が得られます。過去の履歴だけでなく業界や市場の平均値と比較すると、より具体的な情報が獲得でき、与信方針策定に役立ちます。
間接情報
間接情報とは、証券取引所に上場している企業の公開情報やメディアで公開されている情報など第三者から得られる情報のことです。
有価証券報告書
有価証券報告書は、証券取引所に上場する企業が公表する財務・経営情報をまとめた文書です。投資家保護の目的で、日本だけでなく多くの国で有価証券報告書の公開が法律によって義務付けられています。
有価証券報告書には、以下の情報が記載されています。
企業の概況 | 企業の沿革 事業内容 経営指標(売上高や純利益等)の推移 関係会社の状況 従業員の状況 |
---|---|
事業の状況 | 経営方針 経営環境 企業としての課題 事業等のリスク 経営者による財政状態等の分析 経営上の重要な契約 研究や開発についての活動 |
設備の状況 | 設備投資等の概要 主要な設備についての状況 設備新設、または除去などの計画 |
提出会社の状況 | 株式などの状況 配当政策 自己株式の取得などの状況 コーポレートガバナンス等 |
経理の状況 | 連結財務諸表など 財務諸表など |
提出会社の株式事務の概要 | 事業年度の開始と終了の時期 定時株主総会の時期や基準日 配当の基準日 株式の単元数 公告の仕方 |
提出会社の参考情報 | 親会社など関係する会社の情報など |
提出会社の保証会社などについての情報 | 保証会社が有価証券の発行に関係している場合にのみ記載 |
主要国の証券取引所のサイトから、各国の上場企業の報告書を取得することが可能です。
登記情報
法人登記・不動産登記・動産担保登記などの登記情報は、企業の基本的な法的・経営的な情報を確認するために重要なデータです。また、登記簿は政府や商業登記所のウェブサイトで取得できることが多いため、現地の商工会議所や関連機関を活用することで正確な情報を入手できます。
登記関係の書類は当局が管理しているので、信頼性の高い情報が得られるというメリットもあります。
海外企業の信用調査の方法
海外企業との取引では、相手企業の信用状況を正確に把握することがリスク回避につながります。与信調査の方法は企業内部の情報分析から第三者による外部調査まで多岐に渡りますが、海外企業の信用調査にはどのような方法があるのでしょうか?
こちらでは、内部調査、直接調査、外部調査、委託調査という4つの調査方法についてご紹介します。
内部調査
内部調査では、自社で管理している取引先のデータを精査します。調査対象となるのは、取引履歴、支払い遅延の記録、債務の状況などのデータです。
新規取引を行う時点では過去データがないため調査が難しいですが、社内で蓄積したデータが豊富であれば、独自の評価基準をもとに信用リスクを評価できます。内部調査はコストを抑えながらも信頼性の高い判断が可能です。
直接調査
直接調査とは対象企業に対して直接経営状況や財務情報をヒアリングする方法です。直接訪問するか、オンラインインタビューや電話などを使って行います。
企業との信頼関係が構築されている場合、直接調査はダイレクトに情報が得られるというメリットがあります。その一方で情報が正確であるかどうかの判断は難しかったり、聞き方によっては相手の心象を悪くする可能性もある点にも注意が必要です。
外部調査
外部調査は公または第三者機関に公開されているデータから財務状況等を調査する方法です。参照するデータや機関によって、以下のように3つの種類に分けられます。
検索調査
→登記情報、格付け機関のデータ、株式市場などのデータを参照する。
側面調査
→同業他社や調査会社から取引先の情報を得る。会社としての基本情報の他、仕入れ先・販売先・取引状況・業績等が調べられる。
官公庁調査
→官公庁に登録された情報などを閲覧してデータを得る。
委託調査
海外企業に対する調査を、信用調査会社などの第三者機関に委託する方法も一般的です。
特に海外企業を対象としている信用調査会社は現地の法規制や商習慣に精通しているため、自分たちで一から調査するよりも各段に効率よく多くの情報を得られます。
さらに、現地での取引先とのやり取りが不要になるため、企業の負担を軽減できます。専門機関のレポートは対象企業の財務状況、取引リスク、評判などの包括的なデータ・分析が取得できます。
海外企業の信用調査を外部に依頼するメリット
海外与信調査を外部に依頼するメリットは、情報収集の質と効率が大幅に向上するという点が挙げられます。
効率よく質の良い情報が得られる
自社だけで調査を行う場合、現地の法規制や文化に関する知識が不足することが多いです。
現地のローカルルールや慣習などが分からないと、信頼性のある情報にアクセスするのはとても難易度が高いです。
ローカライズされたネットワークや現地のデータベースが利用できる
言語やタイムゾーンの違いも大きな障害となり得ます。海外企業に強く独自のネットワークがある調査機関に依頼すれば、専門的なデータベースを活用でき、最新かつ正確な情報を入手可能です。
自社で調査する時と比較して、調査コストとリスクを最小限に抑えながら、迅速に意思決定ができる点も魅力です。
調査会社から得られる信用情報とは
海外与信調査会社から提供される信用情報は、大きく公開情報、客観情報、分析情報の3つに分けられます。
調査会社によってより細分化されていたり、区分がされていない場合もありますが、情報としての性質をカテゴリに分けるとおおむね上記の3種類になると言えるでしょう。情報の性質を知ることで、海外でのパートナー企業の選定から与信判断、与信管理に役立てることができます。
それぞれの特徴や具体例について、項目ごとにご紹介していきましょう。
公開情報
公開情報とは、企業が法的に公開を義務付けられていたり、その企業が自社のウェブサイトなどで公開しているデータを指します。
具体例として、
- 決算公告
- 有価証券報告書
- 商業登記簿情報
- 訴訟情報
- 新聞の記事
などが挙げられます。
これらの情報は企業の財務状況や経営戦略を理解する上で基礎となります。さらに、多くの国では証券取引所のサイトを通じて有価証券報告書など公的な決算書類にアクセスが可能です。
客観情報
客観情報は企業自体が公開していないものの、金融機関や業種団体などの第三者から得られる評価や分析データなどです。以前は銀行の法人向け融資担当から情報を得ることが多かったのですが、プライバシー意識の向上や企業の情報管理の厳格化などもあり、近年は銀行から特定の企業の情報を得ることは難しいでしょう。
そこで代わりに重要視されているのが取引先からの評価です。支払いサイトや手形の不渡り情報、人事異動といった情報も立派な客観情報として扱われます。客観情報は公開情報だけに依存せず、幅広い視点から信用リスクを評価するために欠かせない要素です。
分析情報
分析情報は信用調査会社が複数の情報元から独自に分析を行う詳細なデータです。
- 格付け
- スコアリング
- 倒産確率
- 評点
などと呼ばれることが多いです。
調査会社によって評価の方法は異なりますが、企業の成長可能性や経営の健全性が数値として示され、客観的かつプロの視点から見た企業の将来性について知ることができます。
海外進出を成功させるために
海外進出時の企業の与信調査は未払いなどのトラブルリスクを抑えて、ビジネスとして成長するために必要不可欠です。とはいえ、国やエリアによって法律や慣習などは大きく異なるので、国内での信用調査と同じように行うと思うように情報が得られない可能性も高いです。
海外進出を検討されているなら、海外での信用調査の経験とノウハウが豊富なプロの手を活用することをおすすめします。
本コラムの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。