2024年10月23日
【海外規制調査の重要性】費用をかけてでも調査が必要なわけ
長らく続く円高や国内市場の縮小、ECチャネルやSNSの国際的普及などの要因もあり、中小企業や小規模事業者であっても海外進出する例が増えています。そこで必須となるのが、現地の規制や法令・法律などを知ることです。
今回は海外進出時の規制調査・法令調査について、どのような事柄を、どのように調査すべきか、また国による違いがあるのか、などについて詳しく解説します。
①海外調査における海外規制調査の重要性
②海外進出企業が主に知っておくべき海外規制
③実際の海外規制例
本コラムは、市場調査業界で多くの実績を誇る未来トレンド研究機構が監修しております。
情報収集の重要性が、日に日に増している昨今、少しでも皆様のお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。
目次
海外進出時の規制調査
海外規制調査とは、各国の法律や業界ごとに設定されたルールを把握し、ビジネス活動が合法的かつ円滑に行えるようにするための調査を意味します。具体的には、税制、労働法、環境規制、輸出入規制、個人情報の取り扱いなどが対象となり、文献調査、ヒアリング調査などで行われるのが一般的です。
進出前に現地の規制調査を怠ると、予想外の高額出費が発生したり、最悪の場合事業の停止リスクに直面する可能性があります。
特にグローバル展開では進出先の国によって規制内容が異なるため、ビジネス上のリスクを軽減し、持続的な成長を続けるために、事前に正確な情報を取得することが必要不可欠です。
海外規制を知る重要性
海外規制の理解の有無は、ビジネスの成功を左右しかねません。進出先の法律や規制はその国の市場環境や消費者保護などの目的に沿って頻繁に改正されます。現地の法律や規制に対応するための情報収集が不十分だと、現地での業務停止や法的罰則を受けるリスクが高まります。
特に税制や労働法の違反は、企業にとって大きな財務的負担を与えるだけでなく、現地での社会的信用低下を招きかねません。規制の遵守は単なる義務ではなく、企業が信頼を築き、市場での競争力を確保する手段でもあります。
主に調査すべき海外規制
海外進出において各国の規制を詳細に把握することは、リスクを抑えて安定した海外進出のために欠かせない大事な工程です。各種規制の内容は国や地域、業種によって異なり、そもそも外資参入に厳しい国も少なくありません。
しかし、法律や規則の全てを調査するには膨大な時間とコストがかかります。海外で事業を行う上で、主にどのような規制を知るべきなのか見ていきましょう。
・外資規制
– 出資比率
– 業種
・法令
– 労働法
– 独占禁止法
– 知的財産法
– 消費者保護法
– 倒産法
・外為規制
– 貿易取引
– 資本取引
・物権
・贈収賄
・税制
・環境規制
外資規制
外資規制とは、外国企業や投資家が現地企業への出資や事業を行う際の条件や制限を指します。多くの国では、安全保障や経済保護の観点から外資規制が導入されており、規制内容は地域や業界によって異なります。主な外資規制には出資比率や業種に関するルールなどがあります。
出資比率
外資規制がある国や地域では、外国企業の資本比率に制限が設けられていることが多いです。外国企業の出資が一定割合を超える場合、事業の許可が下りない、もしくは政府の審査が必要となることがあります。
こうした外資規制は自国企業の支配権を保護し、外国からの過剰な影響を防ぐ目的があります。 たとえば、タイでは外国人事業法に基づき、外国企業あるいは外国人事業主がタイ国内でビジネスをする際、外国企業の資本比率は一定の割合を超えないよう定められています。
業種
自国の産業や国益等を保護する目的で特定の業種に外資参入を規制していることもあります。たとえば、農業(加工工程を含まない)、水産業、放送、航空、インフラなどの分野で外資参入が規制されていることが多いです。
規制をかいくぐるためのスキームなどもありますが、規制逃れが大規模だったり重大な規制違反が発覚すると、罰金や事業撤退を求められる可能性もあります。
一方で、主に発展途上国などでは技術力向上や経済発展のために製造業や観光業などでは外資を歓迎する傾向があり、規制が緩やかな分野もあります。業種ごとの規制の違いを事前に把握し、それに応じた戦略を立てることが成功の鍵です。
法令
海外での事業展開において、現地の法令理解は不可欠です。ビジネス活動が違法とならないよう、労働法や独占禁止法、知的財産法、消費者保護法、倒産法などの多岐にわたる分野の法令を把握しなければなりません。国によって規制の内容は大きく異なる上に、そのエリアの慣習や文化、宗教といった専門的な知識が必要になるため専門家に依頼することが推奨されます。
労働法
海外進出を検討している時に、まず調査すべきなのが労働法です。雇用契約、労働時間、賃金、福利厚生、社会保険など、従業員の権利を守るために細部までルールが決められています。
多くの国で最低賃金や勤務時間の上限が定められており、それ自体は日本と大きく違うわけではありません。しかし、国や地域ごとの文化に合わせた労働条件の設定が求められることも多い点にも注目すべきです。
- 1日の決まった時間に宗教的儀式(お祈り)をする時間を設ける
- 宗教上の安息日は労働が禁じられている
- 連邦法、州法を合わせた複雑な法規則の遵守
- 付随義務の内容
- 解雇規制の内容
上記のような要素は特に国家間での違いが大きいため、グローバル展開する場合はローカライズした労働環境作りをしましょう。
独占禁止法
独占禁止法は市場における健全な競争を促進するための規制です。企業間の価格カルテルや市場独占を防ぐことを目的としており、違反した企業には厳しい罰則が科されることがあります。
日本の重要な産業のひとつである自動車産業においては、近年でも独占禁止法違反による処罰を受けた例は多数あります。たとえば、大手メーカーがアメリカでワイヤー販売をめぐる独占禁止法違反と判断された事例では、司法省に2億ドルを支払った上、日本人社員が3人収監されるほどの重い罰を受けました。
特にグローバル展開している企業は、進出先国の独占禁止法を十分に理解し、取引慣行に反映する必要があります。
知的財産法
知的財産法は、商標、特許、著作権などの権利を保護するための法律です。特に製造業や小売業、IT事業などを営んでいる会社が海外進出する際には、自社の技術やブランドを保護するための出願が重要です。
新興国では知的財産の無断使用が問題になることが多かったり、外国で有名な名称や商品名、人物名などをいち早く商標登録して国内市場に参入する企業に対して多額の使用料を獲得するというビジネスがあるので法的手続きを視野に入れつつ調査を進めましょう。
消費者保護法
消費者保護法は、製品やサービスの品質・安全性を保証し、消費者の権利を守るための規制です。海外市場では国や地域ごとに製品表示や広告に関する規制が異なるため、現地のルールに沿った対応が求められます。
たとえば、アメリカにおける消費者保護法として反トラスト法(独占禁止法)のひとつであるFTC Act(Federal Trade Commission Act)があります。こちらの法律では不当な競争や不公平な取引から保護するために、マーケティング、広告、販売戦略、支払いセキュリティに関するルールを定めています。
これまでAmazonやFacebookといった超有名企業も、FTCに基づき消費者への返金や巨額の罰金等が課せられています。
倒産法
倒産法は企業が経営破綻した際に適用される法律で、債権者の権利保護と公平な資産分配を目的としています。国によって再建型や清算型など異なる破綻処理手続きが存在し、進出先の倒産法を理解することで不測のリスクに備えることが可能です。
特にヨーロッパでは支払い不能状態に陥ってから倒産手続きまでの期限が定められており、迅速な対応が求められるため、専門家の支援を受けることが推奨されます。
外為規制
外為規制(外国為替および外国貿易法)は、国家経済の安定と健全な発展を目的とし、資金や物品の外貨建て取引等を規制するための法律です。多国籍企業が現地で取引を行う際は、輸出入品や資本移動に関する制限を遵守する必要があります。ここからは外為規制の対象となる取引の種類についてご紹介します。
貿易取引
日本においての貿易取引の法令としては、外為法に基づく政令のひとつである「輸入貿易管理令」「輸出貿易管理令」などがあります。経済産業大臣による許可・承認を受ける貨物の種類や手続きの方法について定められています。輸出入に関する規則については、輸入貿易管理規則(昭和二十四年通商産業省令第七十七号)から確認できます。
また、取引を行う国によって、決済通貨の指定があったり、輸出と輸入で異なる取引条件を設けていることがあります。
資本取引
資本取引における外為規制は、外国企業による国内企業への投資や、企業間の資金移動を管理するものです。資本金を事業を行う国内の銀行口座で受けなければならなかったり、外国企業から借り入れた資金については用途が定められていたりと資本取引に関するルールも国によって異なります。
物権
物権とは、物に対する支配権を意味し、不動産や動産に関する権利を含みます。海外ビジネスにおいては、土地や建物の所有権や賃借権の取得が重要となりますが、各国で不動産の取得条件や登記手続きが異なります。
特に一部の国では外資系企業による不動産購入に制限があるため、現地の物権法を正確に理解することが求められます。契約不履行時のリスクも含め、事前に法的助言を得ましょう。
贈収賄
贈収賄は企業活動において重大な法的リスクとなります。多くの国で贈賄防止法が強化されており、違反すると高額な罰金や企業の信用低下を招く恐れがあります。
ただ、贈収賄に対する厳しさには国や地域によってグラデーションがあります。商習慣としての賄賂がビジネスをうまく進めるために常態化している国があったり、米英のように厳格な腐敗防止法を定めている国もあるので国際的な規範や現地法の理解が欠かせません。グローバルな基準に従ったコンプライアンスプログラムを導入しましょう。
税制
税制は国ごとに異なり、法人税や消費税、付加価値税(VAT)、優遇税制など多様な仕組みやルールが存在しています。海外での事業活動を円滑に行うためには、現地の税制や租税条約に関する理解が欠かせません。
特に多国籍企業の場合、移転価格税制への対応が求められます。また、税制改正が頻繁に行われる国も多いため、最新の情報を把握し税務専門家と連携して対処すべきです。
環境規制
環境規制は、企業活動が環境に与える影響を最小限に抑えるための法律で、廃棄物管理や排出ガス削減などが含まれます。各国で規制内容が異なり、新興国では環境に関する規制が緩いことも多く、欧米、特にEU諸国では厳格な基準が設けられています。
企業はCSR(企業の社会的責任)として環境配慮を示す必要があり、持続可能な経営を目指し、現地の環境法を遵守することが求められます。
業種・業界や国によって異なる海外規制
海外進出を成功させるためには、国ごとの法規制や業界特有の規制を把握することが不可欠です。例えば、独占禁止法や個人情報保護法は多くの国で厳しく適用され、業界を問わず重要な規制です。
しかし、製造業、小売業、IT業界など、業界ごとに特有の規制も存在するので自社の事業分野の規制についても事前に調査する必要があります。こちらでは、例として業種・国ごとの規制についてご紹介します。
【業種】製造業の海外進出で調査すべき海外規制
たとえば、製造業の海外展開では、各国の製品安全基準、輸出管理、環境基準を理解する必要があります。特に、製品に欠陥があった場合に企業の法的責任を問うProduct Liability(PL法)や、製品の成分・素材に関するREACH規制などが知られています。
また、データの取り扱いや知的財産権の保護も、国や地域によって規制内容が異なる上に、頻繁に法改正されることも多いので定期的な確認が必要となります。
以下では、海外進出時に重要な規制についてご紹介します。
データ・ローカライゼーション規制
データ・ローカライゼーション規制は、個人情報や企業の重要データを国外に移転することを禁止するためのルールです。各国でデータ・ローカライゼーションは重要な規則として企業の遵守が求められていますが、中国やロシアなど一部の国では特に厳格な規制があり、データを現地サーバーに保管する義務が課されることもあります。企業はこの規制に違反しないよう、現地でのデータ管理体制を整える必要があります。
EU一般データ保護規則
GDPRは、EU域内の個人データ保護を目的とした規則で、世界でも厳しい規制の一つです。EU内の個人に関するデータを取り扱う企業は、適正な管理・使用を徹底する必要があります。
たとえば、EUのGDPR(一般データ保護規則)では、個人情報の扱いに厳しい基準が求められていることでも有名です。EUを含む欧州経済領域(EEA)で取得した個人の氏名、メールアドレス、クレジットカード番号といった個人情報をEEAの外に移転することは原則禁じられています。
GDPRに違反すると、
- 最大で2000万ユーロ
- EEA内だけでなく全世界の年間売り上げ高の4%
のいずれか高額な方という巨額制裁金が科される可能性があります。企業にはプライバシーポリシーの策定や社内体制の整備が求められます。
各国Product Liability(PL法)
PL(Product Liability)法は、製品の欠陥による損害を防止するための法律で、多くの国が採用しています。製品が原因で消費者に被害が生じた場合、メーカーや販売業者が責任を問われて、巨額の賠償金の支払いなどの義務が生じる可能性があります。企業は事前に製品の安全性を確保し、必要な表示や認証を取得してリスク対策を行いましょう。
各国知的財産権
知的財産権は、特許や商標、著作権などを含む製造業や多くのメーカーにとって重要な資産です。各国で法律や保護期間が異なるため、進出先での権利登録が求められます。特に、模倣品が多く出回る地域では、特許や商標の適切な管理が競争力の維持に不可欠です。
米国輸出管理規則
米国のEAR(Export Administration Regulations)は、国家安全保証等の目的で一部のハイテク製品や軍事関連品の輸出を規制しています。製造業が米国の技術や部品を使用する場合、アメリカを解さない第三国への輸出でもEARの対象となることがあります。
REACH規制
REACH規制は、EU域内で製造・販売される化学物質の安全性確保のために定められた法律です。有害物質の含有を防ぐことを目的としており、製品の成分や人体や環境への影響について細かく開示する必要があります。
REACH規制は厳格な基準を設けていますが、REACHの基準を満たしたと認められればヨーロッパで流通に役立ちます。
【国】アジア圏の外貨規制
アジア圏では各国が経済発展の段階や政策目的に応じた独自の外貨規制を設けています。多くの国が資本流入を促進しつつ、自国の経済を守るために一定の制約を設けており、外資比率や特定産業への参入に制限を課しています。
また、これらの規制は短期間で変更されたり、新たな規制が生まれることも珍しくないので、アジア圏に進出する企業は、現地法を遵守するだけでなく規制の変更にも常に柔軟に対応する必要があります。
中国の外資規制
中国は経済開放を進める一方で、戦略的な産業では外資参入を制限しています。2020年1月に施行された「中国外商投資法」に基づき、外資比率が制限される産業や完全外資が認められない分野が存在します。さらに、金融やIT関連産業では政府の許可や厳しい規制が必要です。
規制の透明性は改善されつつあるものの、規制変更が頻繁に行われるため、最新情報を常に把握しなければなりません。また、ここ数年の不動産バブル崩壊による不況などの影響もあり、今後新しい規制ができたり、厳格な規制強化が生まれる可能性もあります。
インドの外資規制
インドでは、多くの分野で自動ルート(政府の許可不要)での外資参入が認められている一方、「外為管理法」により外資の参入が禁じられていたり、規制が定められている分野もあります。
出資規制が定められた分野もあるので、企業は進出前に外資参入が規制されている業種や必要な手続きを確認することが重要です。
タイの外資規制
タイでは「外国人事業法」に基づき、国内産業の保護を目的とした規制があり、外国企業の資本比率を49%以下とするといったルールが設けられています。製造業や観光業などの特定分野では外資規制が緩和されているものの、不動産や通信業などでは依然として厳しい制約があります。
法律に違反した場合、
- 3年以下の懲役
- 最大100万バーツの罰金
- または懲役と罰金両方
のいずれかの罰則が課せられることがあるため、しっかりと規則を守りましょう。
インドネシアの外資規制
インドネシアでは経済成長と国内企業の保護を目的に、多くの分野で外資参入に制約を課しています。
- 国防産業(武器、弾薬、戦争に使われる機材等)
- 投資(賭博、遺跡、大麻栽培、酒類製造等)
- 石油ガス採掘・供給等
- 1mW以下の発電
- デパート、スーパーマーケット、ミニマーケット以外の小売業
- 輸送機、建機、農機等のレンタル業
- 美容室、床屋
などに該当する分野では外資資本ではなく、内資100%のみと定められています。
政府は段階的に外資規制を緩和していますが、事前の法規制の確認と長期的な規制の変動に備える必要があります。
海外規制の調査は専門家に依頼するべき
海外進出の際、現地のビジネスに関する法律や規制、慣習などは時間をかけて細部まで入念に調査すべきです。今回ご紹介したのは法律や規制の一例ですが、もしもなんらかのトラブルが発生した場合、知らなかったでは済まされません。
とはいえ、すべて自社で調査しようとするのも社内リソース、専門知識の有無などの面から現実的ではありません。縮小する日本市場だけでなく、海外シェアを獲得して経営を安定化したいとお考えの経営者の方や担当者の方は、専門家に依頼されるのがおすすめです。
本コラムの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。