海外に向けたアンケート調査を高精度で行うには

2024年06月28日

海外に向けたアンケート調査を高精度で行うには

海外アンケート調査はターゲットとなる海外市場のニーズや消費者の意見を正確に把握するには非常に有効な調査です。アンケート調査で得られた結果は、適切なマーケティング立案や現地戦略のための強力なツールとなります。

本記事では、海外アンケート調査とはどういったものかといった基本的な内容や、調査を行う際の手順、注意点、海外アンケート調査を成功させるためのポイントについて詳しく解説します。

精度の高いデータ収集のためも今回ご紹介するポイントを押さえ、事業のグローバル展開に役立てましょう。

本コラムで得られる情報

海外アンケートの基礎知識

海外アンケートを実施する際の注意点

海外アンケートを成功させるポイント

本コラムは、市場調査業界で多くの実績を誇る未来トレンド研究機構が監修しております。
情報収集の重要性が、日に日に増している昨今、少しでも皆様のお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

海外アンケート調査とは

海外アンケート調査とは、海外に居住している人を対象にアンケートを回答してもらって情報を収集する調査のことを指します。オンラインで作業を行えるため、低コストかつスピーディーな実施が可能である点がメリットです。

ただし、手軽に行えるが故の難点もあります。利用するパネル(対象者)によって回答に偏りが生まれそれに気づきにくい点、詳細な部分の調査が難しい点、国ごとに貧富の差が大きい・国全体の物価や生活水準が異なる点には考慮しましょう。

海外アンケートを行う際には、社会経済クラス(SEC)に注意し、現地の収入や生活レベルに合った内容にするなど各国の文化や生活水準を考慮した質問設計が重要です。また、なるべく多くの回答を得るためには調査時期は現地の大型連休や宗教行事を避けるといった配慮も必要となってきます。

海外アンケート実施の流れ

海外アンケートを実施する際には、対象の国の文化や社会情勢を押さえつつ、聞きたいことを的確に設定する必要があります。

ここからは、海外アンケートの大まかな流れと、それぞれの手順について詳しくご説明していきます。

海外アンケート実施の流れ

アンケートのテーマ設定と設計

まずはアンケートのテーマを設定し、全体を設計します。ここが明らかになっていないと、なかなか得たい情報を得ることができなくなってしまいますので、特に注力しましょう。

テーマ設定

まずはアンケートで何を調べるのか、テーマを明確にしましょう。調査の目的を整理して得たい情報をはっきりさせた上で、アンケートによって得た情報の活用方法まで想定するとその後の施策などに活かしやすいです

全体設計

テーマが決まったら、アンケートの全体設計を行います。全体設計に必要な要素としては以下のようなものが挙げられます。

①対象国と地域
②回答回収数(サンプル数)
③対象者
④割付条件

①対象国と地域

アンケート調査を行う国や地域を決めます。

②回答回収数(サンプル数)

データとして分析等に用いる回答サンプルの数を決めます。

サンプル数が少ないと調査活動が容易ですが、誤差が大きくなりデータの精度が低下します。一般的にはサンプル数の計算は統計的手法が用いられます。

③対象者

アンケート調査の対象となる人の条件です。年齢、職業、性別、社会的階層、業界などが基準となります。

④割付条件

調査対象者を特定のグループに分類するための条件です。条件は性別、年齢、居住地域、収入などの要因が考慮され、それに基づいてサンプルが均等に分布するように調整されます。

アンケートの作成

海外アンケートを作成する際には、文化的背景や言語の違いを考慮し、適切な質問形式と設問を選定することで、信頼性の高いデータを収集できます。アンケートの目的に応じて、明確かつ簡潔な説明文を提供し、参加者が質問内容を理解しやすいように工夫しましょう

質問形式

どのような形式で質問するのかを設計します。主に以下の3つの方式が挙げられます。

単数選択: 一つの選択肢のみを選ぶ形式。参加者に特定の意見や選好を尋ねる際に有効です。

複数選択: 複数の選択肢を選ぶ形式。複数の意見や選好を調査する際に適しています。

自由形式: 自由に回答を記述する形式。詳細な意見やフィードバックを収集する際に有用です。

設問

設問の作成には、明確かつ簡潔な言葉を用いることが重要です。曖昧な表現を避け、具体的な内容を含めることで、回答者が正確に回答できるようにしましょう。また、文化や言語の違いに配慮し、多言語対応を検討することも大切です。設問作成時のポイントは後ほどご紹介いたします。

アンケート配信

アンケート調査の設計や設問の作成が完了したら、アンケートを配信して対象者に回答してもらいます。主にアンケートサイトなどのプラットフォームを利用し、オンラインで実施するのが主流となっています

海外アンケート実施時の注意点

アンケート調査を実施する際にはさまざまな注意点があります。特に言語や文化が違う海外では、やり方を少しでも間違えると期待した回答が得られないといった事態にもなりかねません。以下のような点には留意しておきましょう。

①国内アンケートとの違いを理解する
②精度の不確実性
③調査会社の選定

①国内アンケートとの違いを理解する

まず、海外で行うアンケートは、国内のそれとは大きく違うということを理解する必要があります。
海外アンケートと国内アンケートの6つの違い 国内アンケートと海外アンケートとで、気をつけなければいけないポイントは、以下で挙げるようにいくつかの違いがあります。これらを意識して調査の設計や設問の作成、配信をしましょう。

SEC(社会経済階層)について

SEC(社会経済階層)正確なデータ収集には、現地の社会経済状況を十分に理解した上での設計が求められます。社会経済階層(SEC: Socio-Economic Classification)は、海外アンケートにおいて各国の経済状況や文化に応じた属性に基づいて分類するために用いられます。

SECは主に収入、職業、教育水準、居住地域などの要素を考慮して決定されます。これにより、消費者の購買行動やライフスタイルを理解し、ターゲット市場の特性を把握することができます。

各国のSECを調査設計や設問に反映した上でアンケート調査を実施することで、グローバルなマーケティング戦略の策定に役立つデータの収集に繋がります

アンケートモニターの属性

アンケートの配信先として、各アンケートサイトや調査会社が保有するモニターにもそれぞれ属性や違いがあることがあります。

また、アンケートモニターの属性は国によっても大きく異なります。たとえば、日本のモニターは高齢化社会の影響もあってか40〜60代以上が80%を占めますが、海外では若年層の割合が高い傾向にあります。特に中国・タイ・台湾などのアジア諸国では、10~30代までの若年層が多く、50代以上は極端に少ないです。

そのため、調査対象者条件に応じて、調査手法の変更や一般生活者のリクルートが必要な場合があります。これにより、各国の社会経済状況に応じた精度の高いデータ収集が可能となります。

回答デバイスの違い

回答デバイスの違い海外アンケートにおいて回答デバイスの違いはデータの品質に影響を与えます。日本国内ではアンケート回答にPCを利用する割合が他の国と比べて高く、アンケートによっては半数以上の回答をPCが占めることもあります。一方、海外では地域に関係なくスマホからの回答が主流です。

回答デバイスが異なると、マトリクス形式の設問が多い場合に顕著な影響が出るようです。PCでは問題なく表示されていても、スマホでは画面が小さく縦横のスクロールが多くなり、回答時にストレスを感じることがあり、その結果として回答の精度が低下する可能性があるのです

そのため海外アンケートの設計時には、回答デバイスについても考えなければなりません。

翻訳の必要性

国内アンケートでは日本語のみを使用しますが、海外アンケートでは対象国の言語に翻訳する必要があります。翻訳の際には単なる言葉の変換だけでなく、その国の文化や習慣、価値観を考慮したローカライズが求められます。適切な翻訳を行わないと、質問の意図が伝わらず、データの信頼性が低下する可能性がある点に注意が必要です。

複数の国でアンケート調査を行う際は、専門の翻訳サービスを使うか、ネイティブスピーカーに翻訳を依頼することをおすすめします。

調査期間が長い

海外アンケートは、国内アンケートと比較すると調査期間が長くかかります。その理由としては、

  • 対象地域が広範囲にわたるため、回答収集に時間がかかる
  • 言語や文化の違いを考慮した翻訳とローカライズといったプロセスが必要
  • 対象地域の祝祭日や休暇期間も考慮しなければならない
  • 現地のパネルリクルーティングやデータ収集の方法も異なる

こうした作業の調整に時間がかかることが多く、トータルの調査期間が長くなります。海外アンケートを実施する際は、余裕を持ってスケジューリングをするとよいでしょう

適正な調査時期

海外アンケートを実施する際は、対象となる国や地域の特性を考慮しなければなりません。たとえば、特定の国では年末年始や祝日が集中する時期には回答率が低くなる可能性がありますので、このような時期を避けてビジネスや日常生活が通常通り行われる時期を選ぶことが望ましいです

アンケート実施時に避けたいタイミングの例としては、

欧米や南米などのキリスト教文化圏:クリスマス休暇(12月中旬~1月初旬あたり)

中国、台湾、韓国など:旧正月(2月上旬)

イスラム教文化圏:ラマダン(イスラム教の暦で時期を決めるため事前確認が必要)

などがあります。他にも、その国独自の休暇や宗教的行事などがあるので、実施前によく調べておきましょう。

適切なタイミングでのアンケート実施は、より多くの回答を得るだけでなく、回答者の意見が実際の行動や感情に基づいているため、調査結果の信頼性も向上します

②精度の不確実性

海外アンケート調査は不確実性を多く含み、国内アンケートと同等の精度を実現することは難しい点にも注意しましょう。海外アンケートで精度の不確実性が生まれる理由としては、主に以下の3つが考えられます。

  • 文化や言語の違い
  • アクセス技術やプラットフォーム、デバイスの違い
  • アンケート項目のローカライズ

文化的背景や言語の違いは、質問の解釈や回答に影響を与える可能性がありますが、一方で対象地域に即したアンケート設計やローカライズには、コストや時間がかかります。

不確実性をなくして有効なデータ収集をするためには、入念な事前調査と専門家との協力が不可欠です

③調査会社の選定

海外アンケート調査の精度は、依頼する調査会社によるところが大きいです。現地の文化や市場に精通している会社を選ぶことで、より正確なデータ収集が可能になります。一言で海外アンケートと言っても、会社によって得意な地域が異なるので、事前に確認しておきましょう。

また、アンケートの調査方法(定性調査、定量調査など)や収集後のデータ分析の有無、なども依頼前に知っておきたいポイントです。人材やリソースが足りない場合、調査サンプルだけ渡されても結果を施策等に活かせません。

アンケート調査によって得た情報を活かすためにも、海外アンケートを依頼する際は料金や対象エリア以外のデータ分析や示唆出し対応などの有無といった細かい部分も確認しておくことをおすすめします

海外アンケートの費用について

海外アンケートの実施には、国内アンケートよりも費用がかかります。

  • 調査対象の国数や地域
  • 調査方法(オンライン、電話、対面など)
  • 収集するサンプルサイズ
  • 対象者の属性、条件等の設定
  • 翻訳やアンケート内容の現地化

以上のような点において国内アンケート調査よりも必要な工程が多く、このプロセスの煩雑化が費用に影響を与えます。また、現地の調査会社との連携が必要である場合、調査後の分析などが必要な場合はさらに費用がかかります。

海外アンケートを成功させるためのポイント

海外アンケート調査が成功するかどうかは調査の設計にあります。ここからは海外アンケート設計の段階で気を付けたいポイントを6点ご紹介していきます。

海外アンケートを成功させるための6つのポイント

アンケートボリュームの調整

日本人が設計するアンケートは世界的に見るとボリュームが大きく、回答時間も長くかかるとされています。そのため、国内と同じ感覚でアンケート設計をしてしまうと、対象地域によってはアンケート回答がストレスとなり、離脱率が上がる可能性が高まります。他にも、いい加減な回答が増えて適切なデータが収集できないといったデメリットもあります。

アンケートのテーマにもよりますが、海外向けのオンラインアンケートの場合、トータルの回答時間が15分以内に収まるのが理想的とされています

トラップ設問

アンケート調査におけるトラップ設問とは、回答者が対象としている人物であるかを確認し、きちんと質問文を読んでいるか確認するために設けられる質問のことです。たとえば、「以下の選択肢から二番目を選んでください」「iPhoneのライトニングケーブルの画像をお選びください」といった指示を含む質問が挙げられます。

このような設問に正確に答えられない場合、回答者が質問をしっかり読んでいないか、無作為に回答している可能性が高いです。トラップ設問はなりすましを除外してデータの質を向上させるために重要な役割を果たします

選択肢形式の設問を中心に考える

アンケートには選択肢の中から回答を選ぶ選択肢形式の回答と、回答者が文章などを入力する自由回答があります。エリアにもよりますが、一般的に海外のアンケートモニターは簡潔に答えられる設問を好む傾向にあります。

離脱率を下げて必要なデータを得るためには、対象地域の国民性や文化に合わせたスタイルで設問を設定することが大事です。長文回答が好まれないエリアでアンケート調査する際は、選択肢形式の設問を中心に設定し、自由記述式の設問は短文形式を用いるのがおすすめです

スマホ画面での見え方

これまでもご説明しているように、海外アンケートにおいて離脱率の低減は最重要課題と言っても過言ではありません。海外ではスマホやタブレットなどモバイル端末でのアンケート回答が日本よりも多い傾向にありますので、それらのデバイスを用いた際のアンケート画面の見え方を工夫しなければなりません

たとえば、

  • 小さな文字がたくさん入った表、読みにくい長文を避ける
  • スマホでは小さく表示されがちな横長画像や表、スライドデータは使用せず、縦スクロール でも見やすい画面作りを行う

などが具体的な対策として考えられます。

翻訳の正確性

海外アンケート調査において翻訳の正確性が重要な理由は、回答データの信頼性と品質を確保するためです。誤訳や不正確な翻訳があると質問の意図を誤解させる、回答の一貫性を損なう可能性があります。

文化的なニュアンスに合わせた表現の工夫や専門用語の適切な翻訳は、回答者が質問を正確に理解し、正確な回答を提供するために必要不可欠です。正確にアンケート内容が翻訳できることで、得られるデータが信頼性の高いものになり、実際の市場や対象集団の理解に役立ちます。

また、用語の翻訳は分野に合ったものを採用する必要があります。同じ単語でも、たとえば機械分野と化粧品分野では翻訳時に適用すべき語句が異なります。調査したい対象のテーマに合わせ正確かつ柔軟な翻訳ができる調査会社を選びましょう。

データの見方を理解する

海外アンケートは選択肢形式がおすすめ、という解説をしましたが、ただ単に選択肢を設置するだけでは自社の事業に有効なデータを得ることは難しいです。設問や項目の内容設定と同様に、収集したデータの見方にも工夫が必要です

相対的に見る

商品の購入意向に関するアンケートを実施した時、複数のエリアで購入意向が70%だった場合、それぞれの競合商品の購入意向と比較することでエリアごとのニーズを相対的に評価できます。

たとえば、日本のAという商品の購入意向が中国とアメリカで70%だったとして、下表のような結果になったら現地でのニーズを相対的に判断できます。

購入意向 自社製品 他社製品
中国 70% 85%
アメリカ 70% 39%

この場合だと他社製品よりも、自社製品の評価が高いアメリカのマーケティングに注力した方がよいということが分かります。

多元的に見る

ある商品の購入傾向について調査したい時、購入の意思と活動に関する設問を複数設定することでより多元的なユーザーデータが収集できます。たとえば、Aという商品の購入意向と購買活動についてアンケートを実施した時以下のような結果になったとします。

商品の購入意向と購買活動についてのアンケート

このように購入意向と実際の購買活動に地域差がある場合、データを多元的に見ることで、それぞれの地域に適した施策を作成できます。

まとめ

海外アンケート調査は、国民性・回答者の年齢層・使用デバイスなど、国内アンケートとはさまざまな点が異なることを意識しなければなりません。また、事業に役立つ高精度な調査データを得るためには、地域や分野に根ざした高いレベルの翻訳、適切なタイミングでのアンケート実施などが大切です。

往々にして海外アンケート調査は国内アンケート調査よりも手間と時間がかかる傾向がありますので、アンケート調査に特化した調査会社の利用をおすすめします。

未来トレンド研究機構は海外調査を得意としており、これまで57カ国以上の調査実績がございます。調査の設計から準備、実施、そしてその後の分析や戦略施策立案まで一貫して対応いたします。海外アンケート調査のことで課題がございましたらお気軽にご相談ください。

マーケティング戦略のための
市場調査・競合調査にお悩みなら

本コラムの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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