2024年04月08日
市場占有率とは?データとして有効活用するためのポイントを解説
競合調査で調査したい指標の一つに市場占有率というものがあります。これを把握することでさまざまな戦略立案に役立てることができますが、果たしてこれはどういった指標なのでしょうか?
この記事では市場占有率の意味や把握する意義、算出する方法について、競合調査のプロがわかりやすく解説します。
①「市場占有率」についての基礎知識
②「市場占有率」を把握・データ活用する利点
③「市場占有率」を戦略建てに有効活用するためのポイント
本コラムは、市場調査業界で多くの実績を誇る未来トレンド研究機構が監修しております。
情報収集の重要性が、日に日に増している昨今、少しでも皆様のお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。
目次
市場占有率(マーケットシェア)とは
市場占有率とは特定の業界総売上の中で、特定の商品やサービスの売上が占める割合のことを指し、「マーケットシェア」や「シェア」とも呼ばれます。シェアが高ければ高いほど、顧客の数が多く、市場への影響度も高いということになります。
市場占有率を正確に把握することで自社の立ち位置がわかり、製品やソリューション、サービスの効果的な販売戦略立案につながるのです。
市場占有率の把握
市場占有率を把握するのは非常に大切なことですが、それを戦略立案に役立てるためには「市場占有率が何を表すのか?」を具体的に知っておくことが大前提です。ここからは市場占有率の詳しい内容について解説します。
市場占有率の目標値「クープマン目標値」
市場占有率を算出した後はそれを現状よりももっと伸ばすことが目的となり得ます。市場における商品・サービスの立ち位置や競争上の優劣を評価する指標として「クープマン目標値」というものがあります。クープマン目標値にはさまざまな指標がありますが、特に以下が重要となります。
クープマン目標値の概要
市場のシェアを見極めるポイントを6つの段階に分けて示した指標。
アメリカの数学者であるB.O.クープマンが、第二次世界大戦時に研究された、強者と弱者の取るべき戦略を示した「ランチェスターの法則」を研究・解析。 そこから導き出した「ランチェスター戦略モデル式」により示された市場シェア理論を、日本の田岡信夫と社会統計学者である斧田太公望が解析し、提唱した市場シェアの目標数値。
①独占的市場シェア
独占的市場シェアとは特定の商品やサービスが特定の市場を独占している状態、具体的には市場独占率が73.9%を超えている状態のことを指します。
②相対的安定シェア
相対的安定シェアとは独占状態とまではいかないものの、その市場の中である程度の安定的な立ち位置を得ている状態のことを指します。具体的には市場独占率が41.7%を超えると相対安定シェアを獲得しているということになります。
③市場影響シェア
別名「下限目標値」とも呼ばれます。市場に影響を与える最低限の水準です。市場占有率が26.1%を超えると、競合企業がベンチマークにしたり対抗手段を取らざるをえなくなったりするなど、市場に影響を与えられるようになります。
④並列的上位シェア
競争が激しく複数の企業で独占占有率が拮抗している状態のことを指します。どの企業も市場を独占しておらず、安定的な立ち位置を得ていない状況です。並列的上位シェアの目標値は市場独占率19.3%が目標で、そこから26.1%にまで上昇させればトップシェアを目指すことができます。
⑤市場的認知シェア
市場的認知シェアとはその名のとおり特定の市場内である程度自社あるいは商品・サービスが認識される水準です。一般的には市場独占率10.9%以上であれば市場的認知シェアを獲得していることになります。
⑥市場的存在シェア
市場的存在シェアは市場での存在が許される最低限のシェアのことを指します。市場独占率6.8%が水準とされ、これを下回ってしまった場合はほとんど市場では認知されていないということになり、撤退も検討する必要があります。
⑦市場橋頭堡シェア
市場橋頭堡シェアは市場で生き残られる最低限の水準で、市場独占率2.8%が目標です。起業した際、あるいは新しい市場に参入した際には、まずこの市場橋頭堡シェアを目指すことになります。
市場占有率の計算方法
市場占有率には「絶対的市場占有率」と「相対的市場占有率」の2種類があります。
絶対的市場占有率とは特定の市場に占める特定の商品・サービスの売上割合を指し、
● 自社商品・サービスの総売上金高÷市場全体の売上高
という計算式で求めることができます。たとえば市場全体の売上高が1,000億円で、自社の売上が100億円の場合、自社の絶対的市場占有率は10%です。ただ、市場によって売上金額が異なり、商品・サービスの種類によって自社の売上高も違ってきます。どの市場の売上高で計算するか?どの商品・サービスの売上高で計算するか?といった定義付けが必要です。
相対的市場占有率とは、競合と比較した上で自社の市場占有率がどれくらいであるかを示す指標です。
● 自社の絶対的市場占有率÷競合の絶対市場占有率
という計算式で求められます。たとえば自社の絶対的市場占有率が10%、競合が30%とすると、相対的市場占有率は33.3%です。
市場占有率の理解
以上で市場占有率の意味や算出のしかたはご理解いただけたかと思います。重要なのは市場占有率を戦略立案やビジネス改善に役立てることです。ここからは市場占有率に対してさらに理解を深めていきましょう。
市場を占有するメリット・デメリット
高い市場占有率を獲得できればいい、とにかくシェアNo.1を目指せばいいと思われる方も多いかもしれません。しかし、実は一概にはそうとも言い切れない面があります。ここからは市場を専有するメリット・デメリットについて考えていきましょう。
市場を占有するメリット
市場占有率が高ければ顧客や取引先から信頼性が高まるという大きなメリットがあります。トップシェアの商品・サービスはそれだけ多くの顧客から支持されていることの証左になるため、購買につながりやすくなります。トップシェアを獲得することで、「シェアNo.1」といった訴求も可能です。
また、商社や販売店などと取引する際にも売上に貢献できるため優位に立てる可能性が高いです。
市場を占有するデメリット
一方で、市場を独占することで取引が不利になってしまうケースもあります。特に中小企業と取引する場合は、相手側に「不利な条件で取引させられるのではないか」「飲み込まれてしまうのではないか」といった警戒感を与えてしまう可能性があります。
また、あまりにも市場占有率が高すぎると公正な取引を阻害している企業とみなされるおそれもあります。公正取引委員会の調査対象になってしまったり取引先が見つからなかったりといった理由で、ビジネスの展開に遅れを取ってしまうリスクもあるのです。
市場占有率を把握する利点
市場占有率を把握することで以下のような利点があり、経営や商品・サービスの改善につなげることができます。
自社製品・サービスの改善に効果的
市場占有率を調査することで、自社の商品・サービスがどれだけ顧客から支持されているのか?を図ることができます。競合よりもシェアが低い場合は、その要因を分析して商品・サービスを改善していくことで、売上・利益の拡大が見込めます。逆に競合よりもシェアが高い場合は、顧客から支持されている要素をさらに伸ばすことで、よりシェアを伸ばせる可能性が高まります。
なお、商品・サービスを改善する際には、その後にどれくらいシェアを拡大できるか?といった見込み、あるいは目標も同時に算出しましょう。
市場における現在地の把握
市場占有率を調査することで自社と他者のポジションを客観的に把握することも可能です。自社よりもシェアが高い企業が存在するのであれば、その企業の商品・サービスをベンチマークとして、強みや弱みを分析してみましょう。競合に打ち勝てるような強みを自社商品やサービスにもたせる、あるいは競合の弱みを補うような強みをもたせることで、さらなるシェア拡大が狙えます。
また、後続企業にシェアを奪われるという事態も考えられますので、常に市場占有率を把握しておけば先回りをして追い越されないための対策が可能となります。
市場占有率を活用する場面
市場占有率を把握しておくことで顧客からの支持率や自社・競合のポジションを知ることができます。ここからは市場占有率を具体的に経営のどのような場面で活かすことができるのか?について解説します。
市場への新規参入を検討中
新規市場にやみくもに参入しても、競争に打ち勝つのはなかなか難しいです。競合他社の市場占有率を調べることで、市場がどのような状態にあるのかを把握することができます。
たとえば、大手一社が市場を独占している場合と、複数社が同列の市場占有率で拮抗している場合とではアプローチのしかたも変わってくるはずです。前者の場合は価格競争を強いられるかもしれません。後者の場合は商品・サービスに付加価値を高めれば競争に勝てる可能性は十分にあります。
このように、戦略の立案や、そもそもその市場に参入すべきか否かの判断に役立ちます。
製品・サービスの今後の戦略・KPI設定
前述のとおり、市場占有率を算出することで自社の現在地を把握することができます。市場全体の中での自社の立ち位置、売上、ターゲットのニーズがわかれば、それによって今後自社がどう立ち回るべきなのか、どこまでのシェアを狙うのかも明らかになってくるはずです。
たとえばトップシェアにいるのであれば、自社商品・サービスの弱みを補うことでさらにシェア拡大を狙えます。逆に後発企業が成長している状況であれば、先回りの対策をする必要があります。
今後の成長戦略や生存戦略を練るためにも、KPI(目標)を設定するためにも、市場占有率の把握は必須です。
市場占有率のポイント
以上のように市場占有率を算出することで、市場における自社の立ち位置を把握でき、今後の戦略や施策に結びつけることが可能です。ただ、「シェアが低いからとにかく伸ばしていこう」と考えるのは危険です。
重要なのはその商品・サービスのシェアを伸ばす価値があるか?つまりシェアを伸ばして利益も向上するのかということです。投資をしてシェアを伸ばしたとしても、その商品・サービスで十分な利益が得られなければ赤字となってしまいます。また、市場自体が成長していなければ、シェアを伸ばす意味がありません。
数字の把握とPPM分析
市場占有率を算出したら、それを分析して戦略に落とし込むことが重要です。確かに他社と市場占有率を比較するだけでも、自社の立ち位置を知ることはできます。
しかし、それをよりわかりやすく表現し、適切な経営資源の投資配分を判断する分析手法としてPPM分析という手法があります。
PPM分析とは
PPMとは「Product Portfolio Management」の略で、市場占有率と市場成長率の2つの軸を組み合わせ、事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」という4つのポジションに分類します。
● 花形に分類される事業は市場占有率も市場成長率も高い状態で、会社の柱となりえる事業といえます。
● 金のなる木は市場成長率が低いですが市場占有率は高いため、安定的な収益が見込めます。
● 問題児は市場の成長率は高いものの市場占有率は低いので現時点では利益が出にくい事業といえます。
● 負け犬は市場成長率、市場独占率ともに低い状態です。
たとえば事業が問題児に分類されるのであれば、今は足を引っ張っていてもうまく育てていくことで金のなる木や花形に化ける可能性があります。一方、負け犬であれば今後も収益が見込める可能性が低いため、現状維持あるいは撤退といった判断も必要になるかもしれません。
このようにPPM分析を用いることで、事業の現在の状況を可視化されて把握しやすくなり、的確な判断の材料となり得ます。
市場占有率活用上の注意点
市場占有率は経営戦略を立てる上で非常に有用な指標といえますが、万能ではありません。最後に、市場占有率を戦略立案や経営判断の材料として活用するにあたっての注意点をご紹介します。
● 外部環境・トレンドによる影響がある
● 競合他社からの影響がある
● 将来的な展望の予測に向いていない
外部環境・トレンドによる影響がある
市場占有率は外的な要因やトレンドによって大きく変動することがあります。たとえば集計する期間が違えば数値も変化するはずです。また、競合他社がたまたま商品やサービスの提供を休止するなどしてシェアが一時的に低下したり、今まで着目されていなかった占有率が低い商品・サービスが何らかのきっかけで一時的に売上が上がったりといったケースで変動することも考えられます。
市場占有率を分析に使う場合は、こうした外的要因による変動も考慮しておきましょう。
競合他社からの影響がある
競合他社の動向によっても市場占有率が変動する場合があります。たとえば競合他社がなんらかの理由で減産したり販売数を減らしたりした場合、自社の市場占有率は上がる可能性があります。しかし、この場合はあくまで競合他社のシェアが低下したことが要因であり、顧客から自社の商品・サービスが支持されるようになったとはいえません。
ただ単に市場占有率の増減だけを見るのでなく、なぜ変動したのか?という要因をしっかりと調査しておきましょう。
将来的な展望の予測に向いていない
市場占有率は特定の期間内における自社および競合の市場内の位置づけを把握するための指標です。また、上記のようにトレンドや外的な要因、競合他社の動向によって変動する可能性も大いにあります。
短期的な目標を設定する指標としては向いていますが、長期的な予測をするのは難しいです。
正確な市場占有率の把握するには
注意点はありますが、市場占有率は当面の戦略立案や商品・サービスの改善に大いに役立つ指標です。ただし、算出の方法や集計期間の設定などによって数値が変わってくるため、正確な市場の立ち位置を図るのは簡単ではありません。また、市場占有率を戦略に落とし込むためにはノウハウが必要となります。
市場占有率は経営判断の大きな材料となりえるため、調査や分析は外部のプロに任せることも検討してみましょう。
本コラムの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。