渡辺弁護士へのインタビュー「景品表示法の確約手続きとは」

2025年10月02日

弁護士プロフィール

光和総合法律事務所

渡辺 大祐 弁護士

わたなべ だいすけ

略歴

渡辺大祐弁護士(第一東京弁護士会)
https://www.kohwa.or.jp/wp/members/2190/

景品表示法に関するセミナー・講演を精力的に行い、書籍を多数制作する景品表示法に精通している弁護士。公正取引委員会に審査専門官(主査)として出向後、消費者庁表示対策課において景品・表示調査官として実際の事件執行業務を行っただけでなく、令和5年改正景表法の立案業務を担当。これらの経験から、消費者庁の視点を踏まえて表示を評価し、クライアントにリーガルアドバイスを提供することも出来る。また上級食品表示診断士の資格もあり、食品業界の表示に対して特に精通している。

・「景品表示法における確約手続の実務的考察-第1号事案を踏まえて」『ジュリスト2025年5月号(No.1609)』
(有斐閣:2025年4月)

・『実務の勘所をおさえる 景品表示法重要判例・命令』(共著)
(中央経済社:2025年3月)
「時論 買取りサービスと景品表示法―運用基準改正を契機に」『ジュリスト2024年9月号(No.1601)』
(有斐閣:2024年8月)
「いま知りたい! 食品業界の法律 第1回 産地偽装問題と企業の対応」『ビジネス法務 2024年9月号』(共著)(連載)
(中央経済社:2024年7月~)
『法律要件から導く論点整理 景品表示法の実務』
(第一法規:2023年12月)
『逐条解説 令和5年改正景品表示法 確約手続の導入など』(共著)
(商事法務:2023年12月)

セミナー実績

・「広告法務基礎セミナーシリーズ1景品表示法 知っておきたい景品表示法の基礎知識-近時の実例も踏まえて-」
(公益社団法人日本広告審査機構(JARO):2025年4月)

・「事例で学ぶ『いまさら聞けない景品表示法の基礎と表示ルール』」
((一社)食品表示検定協会:2025年3月)

・「相次ぐステマ広告への行政処分と事業者がとるべき広告対策」
((株)ヘルスビジネスメディア:2025年1月)

・「不正調査の最新動向ー有事対応発生時における企業担当者の注意ポイントと平時の心構え」
(光和総合法律事務所/株式会社FRONTEO共催セミナー:2025年1月)

・「食品表示の法律実務とコンプライアンス解説講座」
((公財)公正取引協会:2024年11月)

メディア出演

「追跡“紅麹サプリ”〜健康ブームの死角に迫る〜」
(NHKスペシャル:2024年6月9日)
「その広告 本当?健康食品の表示 ここをチェック」
(NHKサタデーウォッチ9:2024年6月8日)

本文

確約手続きに対する正しい理解

2025年9月19日、2025年9月26日に消費者庁が確約手続きの認定を行った。確約手続きが導入されてからまだ認定件数は多くはないものの、確約手続きの制度と留意点を理解する上で重要な事例である。

今回は2事例の中でイメージ調査によるNo.1表示を掲載していたことが確認されたイングリウッドについて、日常的に景品表示法の法律相談や当局対応を行い、またセミナーも多数実施している経験豊富な光和総合法律事務所 渡辺大祐弁護士に話をお伺いした。

光和総合法律事務所
https://www.kohwa.or.jp/

事案の規模や複雑性に応じて、様々な法領域・業界に精通した弁護士の知識・ノウハウを結集してチームを編成し、専門的で複雑な案件にも対応。官公庁・民間企業での勤務経験者、留学経験者も多数所属し、弁護士がそれぞれの専門分野を有機的に結合して活動している。

確約手続きに関する前提知識

大前提として、確約手続きは、消費者庁が、事業者の違反を認定する訳ではなく「違反の疑いがあった」ということだ。

「消費者庁のHPのリリースを見ていただければお分かりかとは思いますが、必ず「消費者庁が同法(不当表示)の規定に違反することを認定したものではありません」との記載がなされています」

確約手続きは、事業者は違反行為が認定されず、措置命令・課徴金納付命令を免れる代わりに、自主的に一定の措置(是正措置)を講ずる制度だ。

「これまでの確約計画の認定事案を分析すると、優良誤認表示や有利誤認表示の疑いがあった事案に関しては、被害回復措置が講じられていることが特徴の一つとして挙げられます」

被害回復とは、違反の疑いのある表示がなされていた商品やサービスを購入した一般消費者に対して、返金等の対応を行うことを指す。

「消費者庁は、確約計画を認定するにあたり、特に優良誤認表示や有利誤認表示の疑いがあった事案については、事業者が被害回復を行うのか、行う場合にはどのような態様で行うのかについて関心が強いと考えられます。消費者庁が認定した確約計画については、そのような視点からもチェックしてみると良いでしょう」

確約計画の要考慮事項

確約計画が認定された事業者は、措置命令・課徴金納付命令を課されない一方で、リスクも伴う。

確約計画が認定された後に、事業者が確約計画を履行しなかった場合は、確約計画の認定は取り消されることとなる。また、確約計画が認定された場合、消費者庁は確約計画を認定した旨のリリース文を公表する。

「確約計画が認定されると、リリース文が消費者庁のHPに掲載され、事業者名と共に、違反の疑いのあった行為の概要や、確約計画の概要が公表されます。このように、確約計画の認定は非公表で行われる訳ではないということは、レピュテーションリスクの観点からも、事業者としては把握して置く必要があるでしょう」

また、必ずしも確約計画が認定される訳ではない。

「確約計画は、消費者庁が必要性が認められると判断した場合に行われる手続きであり、その裁量は消費者庁にあります。事業者が「確約計画を利用したい」との申し出をしたとしても、必ずしも利用出来る訳ではないことに留意する必要があります」

このように、違反の疑いのある行為をした事業者に、確約手続を取るか否かの選択権が付与されている訳ではない。

「確約手続は、消費者庁が、事業者に違反の疑いのある行為が認められるとして調査を開始している中で行われる制度です。裏を返せば、日頃から適正な表示を心がけ、実践していれば、そもそも確約手続の対象はもとより、調査対象となることを回避することが出来る筈です。その点で、事業者は日頃から表示が適正に行われているかチェックする必要があるでしょう。時には表示管理体制の運用を見直すことも選択肢の一つです」

事業者が取り組むべきこと

事業者としては、景品表示法違反に関する過去の事例を確認し、事業者の体制を見直すことは重要だ。どのような表示を消費者庁が問題視しているのか、日頃から確認して置く必要がある。No.1表示だけではなく、消費者庁がどのような表示に注目をしているのか、過去の措置事例を確認して置くと良いだろう。

「直近の措置事例を見ていくと、ステルスマーケティングの事例が増えています。特に、インフルエンサーにSNSでの投稿を依頼し、それにより投稿してもらったSNSを、ウェブサイトに掲載(転載)するパターンは注意が必要です。実際は事業者の依頼を受けて投稿してもらったものであるにも関わらず、事情を知らずにウェブサイトを見たお客様は、ユーザーの自主的な意思に基づく感想である(お客様の生の声である)と受け止めてしまう可能性があり、ステマ規制に違反する可能性があります」

ステルスマーケティングに関しては、消費者庁のHPでもQ&Aを掲載するなど、注意喚起をしている。しかし、大手企業でもその理解を誤って掲載してしまうことも珍しくはない。過去の措置事例を確認して、どのような表示が問題となるかを改めて確認して置くと良いだろう。

まとめ

確約手続は、単に消費者庁からの措置命令・課徴金納付命令から免れるために整備されたものではなく、事業者の自浄作用を促す制度である。

いずれにせよ、日頃から景品表示法に則った適切な運用を心がけることを推奨する。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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