2025年06月16日
No.1表示で注意が必要な「景品表示法」を徹底解説

「No.1」「業界最大」「シェアトップ」などのNo.1表示は、消費者にとってわかりやすく、購買意欲を高める魅力的な表現です。一方で、この表示が本当に信頼できる根拠に基づくものなのか、消費者から疑問視されることも多くなっています。
実は、No.1表示には景品表示法という法律上の規制があり、根拠のない表示や誤解を招く表現は法的リスクを伴います。今回はNo.1表示をする際に、企業が守るべきルールと適切な調査、表示方法のポイントをわかりやすく解説します。
・No.1表示が景品表示法上問題になる理由
・No.1表示をするうえでの注意点
・No.1表示に関する弁護士の見解
本コラムは、市場調査業界で多くの実績を誇る未来トレンド研究機構が監修しております。
情報収集の重要性が、日に日に増している昨今、少しでも皆様のお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。
目次
そもそもNo.1表示とは
No.1表示とは、自社の商品やサービスが、ある特定の分野や指標で最も優れていることを消費者や顧客にアピールするための広告表現を指します。たとえば広告のキャッチコピーや記事などに「業界で一番」「売上トップ」「顧客満足度No.1」などの表現を盛り込むことです。
この手法は消費者の購買意欲を高める強い訴求力を持っていて、多くの企業が採用しています。たとえば「利用者数No.1」「売上シェアNo.1」「口コミ評価No.1」など、具体的なデータや調査結果をもとにアピールするのが一般的です。しかし、No.1と表示するには、実際にその根拠となるデータや調査が存在し、信頼性が客観的に担保されている必要があります。不適切なNo.1表示は景品表示法によって厳しく規制されており、違反すると大きなリスクが生じます。
No.1表示が景品表示法上、なぜ問題となりうるのか
No.1表示が問題となりやすい理由は、消費者がその表現を“事実”として認識し、商品やサービスの選択に大きく影響を与えるからです。景品表示法では、優良誤認や有利誤認といった「実際より著しく優れていると消費者に誤認させる表示」を禁止しており、No.1表示もこの範疇に入ります。
合理的な根拠に基づかず「No.1」と表示すると、消費者が誤った選択をするおそれがあり、それによって会社が社会的な信頼性を損なうことにもなりかねません。No.1表示は根拠となるデータや調査方法が厳格に問われるため、信頼性・透明性が不可欠なのです。
合理的な根拠に基づいているか
景品表示法では、No.1表示が「合理的な根拠」に基づいているかどうかが最重要視されます。根拠がない、あるいは不十分な調査結果や、調査手法の不備がある場合は、優良誤認や有利誤認として違反に問われるリスクが高まります。
優良誤認 |
優良誤認とは、商品やサービスが実際よりも著しく優良であると消費者に誤解させる表示を指します。たとえば、消費者調査の調査対象が恣意的に選ばれていた場合や、ごく一部の地域だけの調査結果を全国No.1と誤認させる場合などが該当します。No.1表示の根拠が乏しい場合や、比較する基準が曖昧な場合、消費者は「この商品が一番良い」と信じて購入することになります。 |
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有利誤認 |
有利誤認は、商品やサービスの取引条件や価格などについて、実際よりも消費者に有利であると誤認させる表示を指します。たとえば、No.1表示において「キャンペーン価格No.1」や「コストパフォーマンスNo.1」などの訴求で、実際の調査データや条件が明確でない場合には、有利誤認にあたることがあります。このような方法で消費者に有利な印象だけを与えるのは景品表示法違反です。 |
指定表示 |
指定表示とは、特定の分野や業界で法令によって定められた表示ルールを守る必要がある事項です。No.1表示も、消費者庁などの行政指導や業界団体のガイドラインに従う必要があり、調査方法や結果の開示義務など、表示内容の透明性が求められます。指定表示を無視し、誤った情報でNo.1をうたうと、行政指導や罰則の対象になります。 |
合理的な根拠として認められるには
合理的な根拠があるNo.1表示とは、「誰が見ても納得できるデータや方法に基づいた表示」であることが大前提です。調査対象や比較範囲、調査期間、調査方法などが適切でなければ、No.1表示の信頼性は損なわれます。
ここからは、景品表示法上で求められる「合理的な根拠」の条件を、4つの観点から詳しく解説します。
1比較対象となる商品・サービスが適切に選定されていること
2調査対象者が適切に選定されていること
3調査が公平な方法で実施されていること
4表示内容と調査結果が適切に対応していること
比較対象となる商品・サービスが適切に選定されていること
No.1表示で比較する商品やサービスの範囲が曖昧になっている、あるいは自社に有利なものだけを恣意的に抽出している場合、景品表示法上の問題となります。比較対象は、同じカテゴリ・同一の目的・性能・利用シーンを持つ製品全体から適切に選ばなければなりません。
たとえば、全国展開の商品なのに一部地域のデータだけでNo.1と表示するのは不適切です。同じジャンルでも、価格帯や主要スペックが異なる商品を意図的に除外し、“都合の良いNo.1”を演出することも避けなければなりません。
調査対象の選定には、一般的なユーザーの視点に立ち、客観性と網羅性が求められます。
調査対象者が適切に選定されていること
調査の信頼性を確保するには、調査対象となる消費者や利用者の母集団が公正かつ十分な規模で選ばれている必要があります。特定のファンや自社顧客だけを対象にした調査はバイアスが生じやすく、No.1表示の根拠としては不十分です。
信頼性の高い調査結果は、消費者にも安心感を与えます。年齢、性別、地域、利用実態など、多様な属性をバランスよく含め、なるべく多くの消費者の意見を反映する調査設計が重要です。
調査が公平な方法で実施されていること
No.1表示の調査は、恣意的な設問や誘導的な調査方法を避け、中立的・客観的なリサーチ手法で行うことが大切です。質問文や選択肢にバイアスがかかっていないか、調査実施者や調査会社が第三者性を持っているかどうかもポイントです。
また、調査時期や調査対象が限定され過ぎていないかも検証が必要です。調査票やアンケートの設計段階から専門家や第三者の監修を受けることで、公平性と信頼性が高まります。
表示内容と調査結果が適切に対応していること
No.1表示のキャッチコピーやPR文が調査結果と矛盾していないか、検証も必須です。たとえば「満足度No.1」と表示する場合、本当に「満足度」を聞いた調査である必要があり、「知名度」や「購入率」の結果を「満足度」とするのは誤認となります。
また、調査で得たデータを正確に表示し、調査時期や調査方法、調査会社の名前、母集団の規模、選択肢の内容まで明記することで、消費者が根拠を検証できる状態にしておくことが求められます。
No.1表示上の注意点
No.1表示を広告やPRに活用する際は、表示の「範囲」「期間」「出典」など、細部まで明確にすることが不可欠です。曖昧な表示は消費者庁から指摘されやすく、企業の信頼性を損なう原因にもなります。以下では、特に注意すべき4つのポイントを解説します。
●商品等の範囲
●地理的範囲
●調査期間
●調査の出典
商品等の範囲
No.1表示で対象となる商品やサービスの範囲をしっかりと限定し、「どのカテゴリ・範囲でNo.1なのか」を明示することが重要です。たとえば「エネルギードリンクNo.1」と表記する場合、“エネルギードリンク”というカテゴリはもちろん、国内全体・特定地域・特定年齢層など、どの“範囲”でNo.1かを明らかにしましょう。
対象範囲が広すぎたり曖昧だと、消費者に誤解を与えやすく、根拠の検証も困難になります。製品やサービスのラインナップごと、または期間ごとに細かく範囲を切り分けると信頼性が高まります。
地理的範囲
No.1表示の調査が行われた地域が限定的な場合、その旨を明記することが求められます。全国規模で調査した場合と、都市部や特定県だけで調査した場合とでは意味合いが異なるため、「東京都内No.1」「関西エリアNo.1」など地理的な範囲を正確に伝えましょう。消費者は地理的範囲を基準に選択することも多いため、信頼性向上に直結します。
調査期間
No.1表示の根拠となる調査期間も明示すべき重要事項です。たとえば「2023年1月~12月調査」といったように、どの期間のデータなのかを記載しなければ、消費者は古い情報かどうか判断できません。業界や製品によっては市場変化が激しいため、最新の調査データであることも信頼性に関わります。適切な調査期間の表示は、PRの透明性を高めるうえで欠かせません。
調査の出典
No.1表示の根拠となる調査データやリサーチ会社、出典元の明記も必須です。調査結果が誰によって・どんな方法で実施されたのか、出典を明らかにすることで消費者もその信頼性を判断できます。自社調査か第三者調査かも消費者に開示し、万が一疑義が生じた際にはいつでも検証できるよう、出典元の情報を公開しましょう。
No.1表示で景品表示法に違反するとどうなるか
景品表示法違反と判断されると、企業のブランドや信用は大きく傷つきます。また、法的なペナルティも課されるため、慎重な対応が求められます。No.1表示で違反と認定された場合、以下のような法的責任や制裁が科せられます。
そもそも責任の所在は?
No.1表示の根拠となる調査や広告表現が不適切だった場合、その責任は基本的に事業者(広告主)にあります。たとえ調査会社が不適切なリサーチを行った場合でも、最終的に広告として公表する企業側の責任が問われます。自社の信頼性確保のためにも、調査設計から表示方法まで厳格に検証しましょう。
ペナルティの内容
景品表示法違反となった場合、企業にはさまざまなペナルティが課されます。主なものとしては「措置命令」「課徴金納付命令」「刑事罰」があります。
措置命令 |
措置命令は、違反広告の訂正・削除、公表などを行政指導で命じられる措置です。速やかな是正が求められます。特に社名が公開されてしまった場合は社会的信用が大きく低下します。 |
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課徴金納付命令 |
課徴金納付命令は、売上額や違反の影響度に応じて課徴金(罰金)が科される処分です。2023年の改正で上限額も見直され、企業にとって大きな経済的打撃となります。 |
刑事罰 |
景品表示法違反が悪質と認定された場合、刑事告発されるケースもあり、罰金刑や懲役刑が科せられるリスクもあります。経営陣も個人として責任を問われる可能性があります。 |
実際のNo.1表示による景品表示法違反事例
実際に消費者庁の資料などで指摘されている事例として、特定の一部地域でしか調査していないにも関わらず「全国No.1」と表示したケース、母集団が限定的(既存顧客のみなど)なのに「業界No.1」と表示したケース、調査の出典・期間が明記されていないままNo.1表示を行い、消費者に誤認を与えたケースなどが挙げられます。こうした例はすべて、合理的な根拠が認められず景品表示法違反として行政処分の対象となっています。
景品表示法に精通する弁護士方の見解
ここからは、No.1表示をする際のリスクや適法な調査・運用方法について、景品表示法の実務に精通する弁護士の見解をまとめています。法律のプロの視点から、企業担当者が押さえておきたい景品表示法の本質と注意点をわかりやすく解説いただきました。
No.1表示は公正な調査が重要
No.1表示を安心して活用するためには、調査設計から結果の開示まで「公正・中立・透明性」を徹底することが不可欠です。消費者や顧客が納得し、第三者から見ても合理的な根拠が説明できる調査プロセスと表示内容が求められます。
市場リサーチの専門会社を活用することで、信頼性の高いデータの取得や、調査対象・手法の適切な選定、表示内容の妥当性検証などが実現しやすくなります。No.1表示を“単なる宣伝文句”で終わらせず、消費者の正しい判断や社会的信頼性につながるPR活動を心がけましょう。

本コラムの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
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