弁護士プロフィール光和総合法律事務所
渡辺 大祐 弁護士
わたなべ だいすけ
渡辺大祐弁護士(第一東京弁護士会)
https://www.kohwa.or.jp/wp/members/2190/
景品表示法に関するセミナー・講演を精力的に行い、書籍を多数制作する景品表示法に精通している弁護士。公正取引委員会に審査専門官(主査)として出向後、消費者庁表示対策課において景品・表示調査官として実際の事件執行業務を行っただけでなく、令和5年改正景表法の立案業務を担当。これらの経験から、消費者庁の視点を踏まえて表示を評価し、クライアントにリーガルアドバイスを提供することも出来る。また上級食品表示診断士の資格もあり、食品業界の表示に対して特に精通している。
・「景品表示法における確約手続の実務的考察-第1号事案を踏まえて」『ジュリスト2025年5月号(No.1609)』
(有斐閣:2025年4月)
・『実務の勘所をおさえる 景品表示法重要判例・命令』(共著)
(中央経済社:2025年3月)
「時論 買取りサービスと景品表示法―運用基準改正を契機に」『ジュリスト2024年9月号(No.1601)』
(有斐閣:2024年8月)
「いま知りたい! 食品業界の法律 第1回 産地偽装問題と企業の対応」『ビジネス法務 2024年9月号』(共著)(連載)
(中央経済社:2024年7月~)
『法律要件から導く論点整理 景品表示法の実務』
(第一法規:2023年12月)
『逐条解説 令和5年改正景品表示法 確約手続の導入など』(共著)
(商事法務:2023年12月)
セミナー実績
・「広告法務基礎セミナーシリーズ1景品表示法 知っておきたい景品表示法の基礎知識-近時の実例も踏まえて-」
(公益社団法人日本広告審査機構(JARO):2025年4月)
・「事例で学ぶ『いまさら聞けない景品表示法の基礎と表示ルール』」
((一社)食品表示検定協会:2025年3月)
・「相次ぐステマ広告への行政処分と事業者がとるべき広告対策」
((株)ヘルスビジネスメディア:2025年1月)
・「不正調査の最新動向ー有事対応発生時における企業担当者の注意ポイントと平時の心構え」
(光和総合法律事務所/株式会社FRONTEO共催セミナー:2025年1月)
・「食品表示の法律実務とコンプライアンス解説講座」
((公財)公正取引協会:2024年11月)
等
メディア出演
「追跡“紅麹サプリ”〜健康ブームの死角に迫る〜」
(NHKスペシャル:2024年6月9日)
「その広告 本当?健康食品の表示 ここをチェック」
(NHKサタデーウォッチ9:2024年6月8日)
等
本文【景品表示法対策】措置命令から企業を守る管理措置指針とは!?
2024年9月26日、新たなNo.1表示に関する実態調査報告書が発表された。この報告書には、恣意的な調査結果に基づいた顧客満足度の表示など消費者庁が問題視している違反事例を確認出来る。更に後半では事業者が行うべき取り組みを紹介し、「事業者が講ずべき管理上の措置(以降名称 管理措置指針)」を赤字で強調し事業者に対し管理措置指針の重要性を紹介している。
管理措置指針は事業者に義務として課しているものであり、新たに始まった「確約手続き」の利用可否についても重要な判断材料になり得ると消費者庁表示対策課は説明している。
事業者の義務として課されている管理措置指針について光和総合法律事務所で消費者庁表示対策課 景品・表示調査官の経験もある渡辺大祐弁護士にお話を伺った。
光和総合法律事務所
https://www.kohwa.or.jp/
※事案の規模や複雑性に応じて、様々な法領域・業界に精通した弁護士の知識・ノウハウを結集してチームを編成し、専門的で複雑な案件にも対応。官公庁・民間企業での勤務経験者、留学経験者も多数所属し、弁護士がそれぞれの専門分野を有機的に結合して活動している。
管理措置指針で定められた7つの項目とは
管理措置指針は景品表示法(以下 景表法)第22条1項で定められているもので、当メディアでも何度か触れてきた。No.1や初の表示だけではなく、表示を行う事業者は以下の7つの項目を徹底して遵守することが義務として課されている。
- ①景品表示法の考え方の周知・啓発
- ②法令遵守の方針等の明確化
- ③表示等の根拠となる情報の確認
- ④表示等の根拠となる情報の共有
- ⑤表示等を管理するための担当者等を定めること
- ⑥表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置をとること
- ⑦不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
「管理措置指針は事業者に課された義務ですので、知っておくべき内容なのですが、ご相談いただいた際にあまり把握していなかったと回答する方も時々いらっしゃいます。この7つの項目をそもそも知らない事業者も結構いらっしゃるかもしれません。」(渡辺弁護士)
管理措置指針はただ適切な表示を実施するために行うべき方針ではなく、消費者庁の調査と大きく関係しているものである。実際に消費者庁の調査時には必ず「管理措置指針はどのような対策を行っていますか」と尋ねられる。
事業者が適切な回答が出来ないようであれば、日頃から杜撰な表示を運用している事業者と見なされ、措置命令を視野に入れた調査が行われるだろう。場合によっては管理措置指針を遵守していなかったことから、確約手続きを利用出来ないことも考えられるため事業者は改めて見直す必要がある。
事業者としては、消費者庁から調査を受けるリスクを減らすためにも、管理措置指針の各項目について遵守することを推奨する。
7つの項目で特に重要な項目は
勿論7つの項目全ては重要だが、事業者の規模の大きさによっても考え方が異なる。
弁護士の中でも①が最も重要と答える方もいれば、義務なので7つの項目全てを均等に見ないといけないと見解が分かれているケースもある。
このような背景から、事業者はどれを優先的に実行すれば良いか判断がつかないケースも考えられるだろう。
渡辺弁護士はどのように考えるのかを尋ねたところ、「もちろん7つの項目が全て重要項目であるという前提は変わらないが、ヒューマンエラーが起きやすいのは③から⑥の項目です。」と説明する。
「例えば③に関して、No.1表示をしたい事業者が広告を作成するケースで説明しましょう。調査会社による調査の実施のみを確認して調査結果を鵜吞みにしてしまうと、根拠資料の確認としては不十分であると言わざるを得ません。調査が公平な方法で実施されているか否かや、調査内容が表示内容と適切に対応しているか否かなど、No.1 表示が合理的な根拠を有しているかを確認する必要があります。」
事業者が適切なNo.1調査を実施したとしても、最終的な表示が調査内容と適切に対応して無ければ、偽りのNo.1になってしまう。消費者庁は表示の過程ではなく、消費者が最終的にどのようにその表示を受け止めたかを重視する。このような「うっかりミス」で措置命令対象や調査対象になった事業者はこれまでにも多数いることを覚えておくべきだ。
「また、No.1表示の場合に限らず、根拠資料の受け渡しについて、根拠資料を取得する部署と実際に広告を作成する部署との間で単に行っているだけでは完璧な対策とは言い切れません。根拠資料の解釈のすり合わせ不足から、誤解を与えてしまう広告を作成してしまうケースもあります。例えば、家庭用害虫駆除器について、根拠資料が『アクリルケース内において、害虫に対して一時的に回避行動を取らせることを確認したものにすぎず、居住環境における実用的な害虫駆除効果があることを実証するものではなかった』ような場合において、『家屋の害虫を有効に駆除する』と表示してしまうと、優良誤認表示の恐れがあります。このように、最終的な表示についてもチェックもする必要があります。」(渡辺弁護士)
部署間の連携のミスや思い入れの強い表示を適切に運用するためにどうするか。
- ③表示等の根拠となる情報の確認
- ④表示等の根拠となる情報の共有
この2つを徹底することで未然に誤った表示をチェック出来るようになる。しかしこれだけでは不十分だ。表示等の対象となる商品等が一般消費者に供給され得ると合理的に考えられる期間、「⑥表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること」も重要である。
そして、時間経過と共に自主チェックの精度が低下することも考えられるであろうし、そのために徹底して運用が行われているか「⑤表示等を管理するための担当者等を定める」ことも重要だ。
No.1や初の事業者が特に意識すべきことは
これまで紹介した手順はあくまで「基本の形」であると渡辺弁護士は説明する。事業者によって表示したい内容や資料の集め方は異なるため、その事業者に最適な運用を実施しなければならない。No.1や初の表示では次のような対策が必要と渡辺弁護士は解説する。
「No.1表示であれば、調査会社の提示した資料を客観的に自分達で評価しておくことも重要です。事業者が調査会社の調査結果を用いてNo.1表示を行うに当たって、調査会社は当該表示が景表法違反にならないとの保証を事業者に与えてくれる訳ではありません。調査手法が適切でない等、それに基づく表示は景表法違反となる場合も考えられるので、そのような懸念がないか、解消しておくと良いでしょう。」(渡辺弁護士)
情報共有のためにできること
適切な体制を構築しても、危機意識が低ければヒューマンエラーがいつ発生してもおかしくはない。継続的に危機意識を高めるために出来ることは何か、事業者自身で独自で対策を検討しておく必要がある。
「事業者がこれまで自社で行ってきた表示に対し、分かりやすく整理して事案の蓄積を行うことも重要です。知識を集約して、表示に関するチェックのフローが出来上がれば、『この表示をする際には、こういう根拠資料が必要となる』といった共通認識を持てるようにもなります。」
また、過去の消費者庁における運用を情報として整理し管理することは、事業者が適切な表記運用を意識付けするために有用だと渡辺弁護士は説明する。
「チェックフローができる等、ルール化をすること自体は良いことだと思いますが、懸念点をあえて挙げるのであれば、緊張感が無くなり機械的な作業となってしまうという問題があります。そこで、自分事として危機感を持つために、実際の執行事例を定期的に確認しておくことも重要です。消費者庁による措置命令は年間40件程度で、概算すると10日に1件のペースで何らかの措置命令がなされていることになります。その中でも、特に自身の事業に関係するような措置命令を定期的にチェックすることが、法令遵守の意識向上に繋がるでしょう。」
例えば飲食店とオンラインショップを経営する食品事業者が直近の措置事例をチェックしたとしよう。
| 日付 | 企業名 | 措置内容 |
|---|---|---|
| 2024/3/1 | 太陽光発電、イモトのWi-Fi | 不当なNo.1表示 |
| 2024/6/9 | 医療法人社団祐真会 | 口コミと引き換えに割引サービスを提供 |
| 2024/7/26 | 株式会社ファッズ | 税込価格を税抜き価格のように表示した |
| 2024/8/8 | RIZAP | インフルエンサーのPR投稿をお客様の声としてHPに掲載 |
この半年間で発表された措置事例のうち、例えば上記の4つの事例は当該食品事業者が自社で表示を行うにあたっても関係しそうである。このように、定期的にチェックをしておくことで、事業者が注意すべき項目が見えてくる。また措置事例のチェックはそれだけの役割ではない。
「措置命令はただ違反となった事案を学ぶためだけでなく、消費者庁が今どのような表示に対し注目をしているのかが見えてくるという側面もあります。直近の措置命令を見ていくだけでも、例えばNo.1表示やステマについては特に注意すべきであると思います。」(渡辺弁護士)
景表法は時代と共に変化するものだ。措置事例をチェックするだけでも、消費者庁が今どのような表示を特に問題視しているかが見えてくる。事業者として措置事例のトレンドを見ておくことも重要なのだ。
まとめ
2024年10月より新たな改正景表法が始まり、事業者はこれまで以上に注意を持って対応をしていかなければならない。何から初めて良いか分からない時は、まずは管理措置指針で定められた7つの項目を全てクリア出来ているかを検証しておくと良いだろう。その上で何を対策すれば良いか分からなかった場合、渡辺弁護士のような消費者庁の視点に立って解説が出来る弁護士への相談を強く推奨する。
本インタビューの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
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2024年09月26日





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