佐藤碧弁護士へのインタビュー「No.1に関する実態調査報告書」

2024年10月02日

弁護士プロフィール

中本総合法律事務所

佐藤 碧 弁護士

さとう あおい

略歴

まっすぐ。をモットーに、景品・表示規制をはじめとする消費者法全般、民事、商事一般、少年事件、労働事件を取り扱う。2011年〜2014年には、消費者庁に出向し、消費者制度課において消費者の財産被害に係る行政手法の検討等、表示対策課において景品表示法違反事件の調査等を行う。

本文

No.1に関する実態調査報告書から見えてきた事業者が再確認すべきこと

近時のNo.1表示に関する違反事例を受けて、2024年9月26日に消費者庁から「No.1表示に関する実態調査報告書」(以下「実態調査報告書」)が発表された。この報告書には消費者庁がどのようなNo.1表示を問題視しているのか、No.1以外にも注意すべき表示や事業者に求められる対策が何かといった項目が記載されている。

詳細は下記のPDFからも閲覧可能だ。

景表法に精通している担当者や専門家がこの報告書を閲覧すれば、消費者庁がどのような考えを持っているのか理解出来るが、知識が無ければ重要なメッセージを見落としてしまうことも考えられる。

そこで当メディアでは、事業者が適切なNo.1表示を実現するために必要な情報を紹介すべく、弁護士(複数名同テーマで取材予定)、消費者庁に取材を実施している。今回は企業法務を得意とする中本総合法律事務所に所属し、広告法務・景品表示法に精通する佐藤碧弁護士にお話をお伺いした。

中本総合法律事務所
https://nakamotopartners.com/

大阪で70年以上開業する老舗法律事務所。渉外案件を含む企業法務を中心に、離婚・相続問題や交通事故・労働問題など様々な事案を取り扱う。「迅速に価値ある法的サービスを提供する」という考えの基、クライアントの悩み事をスピーディーに解決する。

実態調査から見えてきた事業者が意識すべきこと

実態調査報告書の中で問題な表示としてまず挙げられているものは、イメージ調査を根拠にした顧客満足度調査だ。

イメージ調査とは

調査対象の商品・サービスと比較する競合商品・サービスのウェブサイトを閲覧した際の印象に基づき「顧客満足度が高いと思うものを選んでください」等と質問をして、回答を導く手法。

この手法はWebサイトの印象を問うだけで回答が出来てしまう調査のため、商品の利用有無に関わらず回答が出来る。顧客満足度は、回答者が実際に商品を利用して初めて適切な回答が得られるものであり、イメージ調査でアンケートを取る手法は適切な測定とは言えない。

「今回の実態調査報告書は、No.1表示にあたり平成20年に出された実態調査と比較して、『客観的な調査』についての判断軸が変わっているものではありません。事業者は『客観的な調査』を行い、その調査結果を表示において正確かつ適正に引用してくださいというのがその判断軸で、今回の実態調査報告書では、さらに一歩踏み込んで、調査会社に依頼する場合に注意すべき点を明らかにしています」(佐藤弁護士)

No.1表示で重要となる4つのポイント

  • 比較対象を恣意的ではなく適切に選定しているか
  • 調査対象者を適切に選定しているか
  • 恣意的にならないよう調査が公平か
  • 表示したい内容と調査結果が適切に合致しているか

実態調査報告書で消費者庁が訴えたいメッセージは、「杜撰な調査を実施する調査会社を事業者は利用すべきではない」ということだ。問題のある調査会社はどのようなアプローチで事業者のコンタクトを取るのか。実態調査報告書によれば、No.1表示にあたり調査会社・コンサルティング会社から勧誘、提案を受け調査を受けるパターンが多いとのこと。

「私が知る実際のケースでは、調査会社からNo.1表示が出来るという営業を受けた事業者が、調査手法について確認したところ、調査対象エリアや対象者の年齢層に恣意的な偏りが見られたというものもありました。このような調査会社は強引にNo.1を出すべく恣意的な調査を実施する可能性があるので注意が必要です」(佐藤弁護士)

杜撰な調査結果に気づかない事業者に共通するアクションとして、調査過程を検証せず、そのまま掲載してしまったという点が問題だ。

適切なNo.1表示は、事業者が表示したいNo.1に対し適切な調査を実施し、誰がその結果を見ても適切な調査の結果としてNo.1と表示されていると分かるように心掛ける事。この視点が事業者に欠けていると、実態と大きくとかけ離れた表示となってしまう恐れがあるため注意しなければならない。

適切な調査会社の選び方

これからのNo.1表示では、実態調査報告書の記載にあった通り、杜撰な調査手法を提示する調査会社に調査依頼しないことが重要だ。仮に調査会社が恣意的に作られた調査結果を事業者が見抜けられなかった場合でも、表示の責任は事業者にある。

「実態調査報告書に不適切な調査を実施する調査会社が存在すると示した以上、調査対象になった事業者側が「調査会社に丸投げをしていたので知らなかった」という言い訳は通用しないと考えられます。No.1に関する調査は営業に来た調査会社に丸投げすれば問題ないという考えは捨てて、適切な調査会社を選ばなければなりません」(佐藤弁護士)

事業者は具体的にどのような対策を取れば、適切な調査会社を見極められるのか。

「まずNo.1を取れなかったら返金といった形で、何が何でも御社にとって有利なNo.1表示を行いますと強い訴求をしてくる調査会社には注意が必要です。No.1かどうかは実際に調査をしないと分かりません。必ず出来ると主張する調査会社は、恣意的な調査を実施することも考えられます。強気な姿勢を示す事業者は特に警戒心を持って接するべきではないかと思います」(佐藤弁護士)

「No.1を絶対に取れます」といった強い訴求をする調査会社ではなく、質問内容やアンケート対象者の選定などの調査過程を加味し、実績豊富な事業者を選定することを推奨します。

事業者は調査手法の把握をする

事業者は調査会社を見分ける際にある程度調査方法を熟知しておくと、杜撰な調査過程を見分けることも可能だ。自分たちが調査したいNo.1がどのような調査過程で表示出来るのかを、ある程度把握しておくことが重要だ。

「実態調査報告書では、No.1だけではなく高評価表示に対しても注意すべきような記載があります。例えば「専門医何%が高評価」といった表示の場合、どのような医師に対しアンケートを実施したのか、医師であることをきちんと確認したのか、訴求したい内容と専門分野においてズレがないか、医師に適切な情報が提示されているのか、細かい部分を確認しておかなければ、No.1表示と同様に措置命令対象となる可能性があります」(佐藤弁護士)

事業者に出来ることは表示したい項目に対し、どのような調査を実施すれば良いか。どのような表示が問題かについて理解することが重要だ。知識が無いので調査会社やコンサルタントの意見を頼るのではなく、事業者自身で勉強会やセミナー、消費者庁の措置事例などを読み解きながら、景品表示法を理解しておくことも重要だ。

情報確認の徹底を

実態調査報告書の終盤には、「事業者が講ずべき管理措置(景表法第22条1項)を徹底するように」という文言が紹介されている。

管理措置指針については、これまで他の記事でも多数紹介をした。その中でNo.1や高評価表示を目指す事業者が特に意識すべきポイントがあると佐藤弁護士は解説する。

「7つの管理措置指針のほとんどは対策を立てやすいものなので、遵守している事業者は改めて確認しておけば問題無いと思います。しかし気をつけなければならないものが、実態調査報告書でもヒアリング対象の広告主がほとんど遵守できていなかったと指摘されていた、「表示等に関する情報の確認」です。情報の確認は、事業者によって確認の程度に差が生じるものと思います。これまでは調査結果だけを確認するのみで、調査手法までしっかり確認してこなかった事業者が多かった、というのが実態だったのかと思います。No.1表示や高評価表示をするのであれば、特にきちんと調査手法等も確認しなければならないという消費者庁のメッセージと考えます。」

注視すべき点は、事業者が正確に情報を把握出来るかどうかだ。情報の確認を誤った手法で検証すると、不適切な調査を見抜くことは難しい。この点を解消するために出来ることは景表法に精通している弁護士をはじめとした有識者との連携だ。

「情報の確認は、第三者の意見を聞いて確認する手法がおススメです。チェック担当者を配置して情報を確認する方法もありますが、確認項目が多くなるほど精度が低下してしまう恐れがあります。一般消費者の視点で評価出来るかが重要となるので、No.1の調査過程がどのように見えるかという点を意識してチェックしてもらうと良いでしょう」(佐藤弁護士)

表示の最終的な判断は一般消費者がその表示を見た時にどのように受け止めるかだ。いくら適切なNo.1調査を行っていても、消費者が誤解をするような表示を行うと、有利誤認表示となり、措置命令対象となる可能性が高い。事業者は管理措置指針を遵守しながら、情報の確認を適切に行う方法を議論しておくと良いだろう。

まとめ

実態調査報告書から見えてきたことは、杜撰な調査を実施する調査会社と付き合わないよう、事業者が責任を持って接することということであった。No.1表示や高評価表示について、実態調査報告書の中には商品・サービスを購入するにあたり、約5割の人が意思決定に影響を与えると回答している通り、これからも訴求力の高い表示であるだろう。だからこそ、適切な表示を実施するために適切な知識を持って対応する必要がある。

事業者自身で最適解が分からなければ、佐藤弁護士のような景表法に精通している専門家に相談することを強く推奨する。

本インタビューの監修者

未来トレンド研究機構 
村岡 征晃

1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。

ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。

そんな我々が、少しでもマーケティング戦略や販売戦略、新規事業戦略にお悩みの皆さんのお力になれればと思い、市場調査やマーケティングに関しての基礎知識や考え方などを紹介しております。

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