弁護士プロフィール
北浜法律事務所
薮内 俊輔 弁護士
やぶうち しゅんすけ
公正取引委員会で、2006年から2009年の3年間、任期付き公務員として勤務。公正取引委員会では、独占禁止法、景品表示法などの違反事件の調査、審判手続への対応などを担当。
その経験を活かし、独占禁止法、景品表示法及び下請法に関連する行政機関からの調査への企業に対する助言や代理人としてのサポート、社内調査の実施、M&A案件での届出手続支援、企業からの相談へのアドバイス、コンプライアンス態勢整備の助言や社内研修における講演等を行っている。
本文消費者庁はNo.1や初の調査対象有無をどう判断しているのか?
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)違反となる表示に当たるかどうかは、時代のトレンドや社会的背景に伴って変化するものだ。事業者が景表法に則って適切な広告表示を実現するためには、常にアップデートが必要だ。事業者自身がビジネスを始める際に構築した景表法のコンプライアンス体制も、事業規模や組織の拡大、時代の変遷等によって十分なものでなくなってしまうこともあり得る。そのため適切な表示を心掛けていても、対応が不十分であれば、消費者庁の調査の対象となり行政処分を受けることも考えられる。
広告表示を行っている事業者にとっては、消費者庁の行政処分がどのような経緯で下されたかを把握し、独自に解析していくことが重要だ。今回は消費者庁の視点を掴むべく、消費者庁設立前に景表法を所管していた公正取引員会で任期付き公務員として勤務し、その後も事業者側の代理人として景表法の違反事例に対応した経験のある籔内俊輔弁護士に話を聞いた。
籔内 俊輔弁護士(第一東京弁護士会)
https://www.kitahama.or.jp/professionals/shunsuke-yabuuchi/
公正取引委員会で、2006年から2009年の3年間、任期付き公務員として勤務。公正取引委員会では、独占禁止法、景品表示法などの違反事件の調査、審判手続への対応などを担当。その経験を活かし、独占禁止法、景品表示法及び下請法に関連する行政機関からの調査への企業に対する助言や代理人としてのサポート、社内調査の実施、M&A案件での届出手続支援、企業からの相談へのアドバイス、コンプライアンス態勢整備の助言や社内研修における講演等を行っている。
消費者庁が調査対象事案を選定するポイントは
2023年度は立て続けに「No.1」の表示に対して景表法違反として措置命令・課徴金納付命令がなされた事例が大きく増えた1年でもあった。籔内弁護士によれば「消費者庁は2023年度以前の数年間をみてもNo.1の表示に対して年間数件の景表法違反の措置命令や、一定数の指導も行っていたようです。2023年度は特に措置命令が多かったため注目を集めましたが、消費者庁としては、それ以前から根拠のないNo.1等の表示について問題視はしていたと理解しています」とのこと。
消費者庁が発表した資料「令和5年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」を確認すると、措置命令・課徴金納付命令には至らなかったものの指導対象となった件数が151件もあった。この中にNo.1表示の事例がどの程度含まれているか不明だが、指導対象で留まった事例が多くあったことも十分考えられるだろう。消費者庁はどのような視点で事業者の表示をチェックしているのか。籔内弁護士によれば4つのパターンがあるという。
- 同業他社等からのクレーム等を受けての調査
- 内部者からの通報、事業者からの自主申告を受けての調査
- 一般消費者からの情報提供を利用しての調査
- 消費者庁担当者の情報収集による調査
前記の消費者庁の「令和5年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」によれば、年間で18,114件の外部からの情報提供があり、うち景品表示法違反被疑事案として調査することが適当と消費者庁が判断した事案は71件だった。「No.1」や「初」といった表示を行う事業者に対しては、同業他社等から景表法違反ではないかとの指摘があり消費者庁が調査を行うケースもある。「痩身効果がある」、「肌が白くなる」といった表示は一般消費者が表示に対しておかしいと気づくこともできる。しかし、「顧客満足度No.1」や「業界初」の表示に対しては不自然な表示かを一般消費者が判断するのは必ずしも容易ではない。
「私の経験では、消費者庁が、ある事業者が行っている表示に対して調査を実施すると判断して事業者に対して連絡をしてくるタイミングでは、景表法違反に当たる可能性がそれなりにあるという見立てを持っていることが多いです。信頼性のある程度高い情報や証拠を消費者庁が既に入手している事案については、消費者庁も措置命令・課徴金納付命令の対象になりうる事案として調査を開始する可能性が高くなります」(籔内弁護士)
No.1や初の表示は消費者のクレームよりは、内部告発や同業他社からの指摘で消費者庁が調査に動く可能性が十分あると考えておくと良いだろう。続けて籔内弁護士は以下のように分析する。
「過去の事案を見ると、内部者でなければ知りえないような表示と実態の食い違いによって生じた景表法違反事案も消費者庁の措置命令等の対象になっていたりします。内部告発等での情報提供の場合は確度の高い情報が提供されることもあると思います。消費者庁も調査の人員が限られている中で、効率的に調査を進めようと考えているでしょうから、こうした事案は措置命令等に向けた調査の対象にしやすいと思います」
消費者庁は全ての表示を把握している訳ではないが、事業者や一般消費者の指摘を受けて動くケースは珍しくない。このくらいの誇張であればバレないだろう、問題にならないだろうと考えるのではなく、誰がこの表示を見ているか分からないという視点を持ち危機意識を持っておくべきだ。景表法違反の調査過程を知ることに加え、今後の消費者庁の方針や動向を把握しておくことも重要だ。
「改正景表法で「No.1」や「初」の表示を取り扱う事業者の方を含め、景表法違反で調査を受ける可能性がある企業が知っておくべき新制度としては「確約手続」があります。この制度が始まることで、今後、消費者庁が積極的に景表法違反の調査件数を増やすのではないかと考えています」
確約制度とは、景表法違反の疑いで調査を受けている事業者が、調査の過程において問題となっている表示を取りやめて一般消費者に景表法違反の懸念があった旨を周知する等の改善計画を作って消費者庁に申請し、これを消費者庁が承認した場合には、消費者庁は、景表法違反を認定せずに、かつ、措置命令・課徴金納付命令に向けた調査も行わないという制度だ。この制度は消費者庁側にもメリットがあるという。
「消費者庁は、景表法違反事案に対して措置命令・課徴金納付命令を行う場合には、仮に命令の取消しを求める裁判等があっても対応できるようにするために、案件にもよりますが1年程度の期間をかけて慎重な調査を行っています。調査の対象にできる案件数には限界があります。確約制度が始まると、事業者側から積極的に改善計画が出されて、それが確実に実施されるであろうという場合に限って、消費者庁はその計画を承認する見込みですが、措置命令等を行う場合に比べて消費者庁が調査にかける手間や時間は少なくなることが予想されます。そうすれば、消費者庁は、従前よりも多くの事案を調査対象にすることが可能になります。効率的な調査ができるようになるため、今以上に調査対象となる事業者数も増える可能性があると考えています」(籔内弁護士)
確約手続は、景表法違反の疑いで調査を受けた事業者にとっても違反を認定されずに早期に改善を行って調査が終了するメリットがある制度でもあるが、消費者庁側としては別の角度からのメリットを想定しており、調査件数が増える可能性がある点では事業者にも影響があると見ておくと良さそうだ。
消費者庁の動きを理解し、適切な運用を行えば各事業者が強化すべき対策も見つかるだろう。そこで今回は、事業者が実施すべき不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)対策は何かについて理解すべく、消費者庁設立前に景表法を所管していた公正取引員会で任期付き公務員として勤務し、その後も事業者側の代理人として景表法の違反事例に対応した経験のある籔内俊輔弁護士に話を聞いた。
事業者が陥りやすい2つのミス
No.1や初の表示を適切に運用する際に意識すべきポイントは、表示の根拠となる調査結果の中身と表示が一致していることだ。この原則に沿って運用を実施すれば、景表法違反を未然に予防することができ、消費者庁の調査対象となるケースはかなり低いと言えるだろう。
しかし、景表法違反の未然予防の対策も、完全に違反を生じさせないようにできる訳ではない。表示を行う事業者の内部でのミスや外部との連携ミス等が原因で景表法違反として措置命令・課徴金納付命令に発展しまうケースもあるとのこと。
「事業者の多くは一般消費者を裏切らないようにビジネスを展開していると思いますが、時には意図せずミスが起こります。気をつけていれば防げたミスが原因となっていることもあり、事業者自身がしっかり対策を検討しておくことが重要です」(籔内弁護士)
籔内弁護士が指摘する「事業者のケアレスミス」とは次の2つ
- 表示の根拠となる調査の方法や結果についての確認が不十分であったため、表示内容を客観的に実証する根拠と言えない場合
- 表示の根拠となる調査結果を超える内容を表示において訴求してしまうことによって表示と根拠との間で齟齬が生じた場合
1つ目のケースは、例えば「成分A」という成分が他の製品に比べて最も多く「Aを使った化粧品で含有量No.1」と表示していたが、広告を表示する際に事業者が調査を依頼した調査機関では、各商品の中のAの含有量を測定するための検査方法について、同調査機関が独自に生み出した科学的な裏付けに乏しい方法を採用してしまっていたが、その点の確認が十分ではなかったケースである。
表示がその裏付けとなる根拠なしに行われていれば景表法違反に該当し、措置命令・課徴金納付命令対象になる。このような事例を回避するために、一見もっともらしい調査結果であっても、その結果が客観的に実証されているものであるかどうかが問題となるため、調査機関の説明を鵜呑みにするのではなく、さらに第三者的な立場の専門家等からも意見を聞くといった対応をとることがより良い対応と言える。
2つ目のケースは、上記の「Aを使った化粧品で含有量No.1」と表示していたケースで、例えば調査機関が行った検査方法は客観的に実証されているものであったが、特定の期間に販売されていた商品を対象にしていたため、その後に調査対象にならかったAの含有量がさらに多い商品が販売されているにも関わらず、表示の根拠となる調査の対象期間を明示することなく 「Aを使った化粧品で含有量No.1」という表示を継続してしまったケースである。
「新たに表示を作る際には、その表示の根拠を確認することが必要であり、No.1のような特に強い訴求を行う場合には消費者庁や同業他社から表示の根拠があるのか問われる可能性があることを十分に認識した上で慎重な確認を行うことが必要です。No.1と言える前提となる実績は、時間の経過と共に変化していく可能性もあることから、表示においても調査対象期間を 明示する等しておくこと方が安全であり、そのような表示をしない場合には、その後の変化がないのか定期的なチェックが必要です」(籔内弁護士)
事業者は表示の裏付けとなる根拠の確認と共に、表示がその後どのように使われるのかという視点で、訴求内容や補足しておくべき情報を確認しておくことも必要だ。
事業者が出来ること
景表法違反にならない適切な表示を行うためには、過去の措置命令等を失敗事例として情報収集、分析して、自社で同様の表示ミスを未然に予防できるような対応を検討しておくことが重要だ。景表法違反に該当すると、どのようなペナルティーがあり、事業にどのような不利益があるのか、同業他社の措置命令等も素材として、弁護士など外部専門家等から社内のマーケティング等の担当者に対して、レクチャーをしてもらい、現場担当者のリスクに対する感度を上げることも有益だろう。
「業界内では多数の事業者が行っている表示であっても、たまたま措置命令対象となっていないだけで、実際には景表法違反であるケースもあります。今まで問題視されてこなかったのでこれまで通りの運用で良いという認識ではなく、今のやり方で本当に問題ないか定期的なチェックをするのが良いでしょう」(籔内弁護士)
社内で表示を行う前にリーガル面も含めてチェックすることは必要であるが、それだけでなく、そのチェックが主観的にならないよう外部のアドバイスを受けることも重要だ。社内で適切な体制を構築していれば、景表法違反を未然に予防でき、万が一景表法違反の疑いがある表示を行ってしまったとしても、早期に発見をし、外部専門家等と協力して改善に向けた対応をすることで、消費者庁から処分を受けることなく解決できる場合もあるだろう。
北浜法律事務所
https://www.kitahama.or.jp/
企業法務を中心に国内外の様々な案件を取り扱う総合法律事務所。東京、大阪、福岡の3拠点で事業を展開。M&A、証券、ファイナンス、知的財産、事業再生・倒産、独禁法、国際商取引、訴訟・仲裁をはじめとする各分野のエキスパート弁護士が所属し、ワンストップで包括的なリーガルサービスを提供する。
本インタビューの監修者
未来トレンド研究機構
村岡 征晃
1999年の創業以来、約25年間、IT最先端などのメガトレンド、市場黎明期分野に集中した自主調査、幅広い業種・業界に対応した市場調査・競合調査に携わってきた、事業発展のためのマーケティング戦略における調査・リサーチのプロ。
ネットリサーチだけなく、フィールドリサーチによる現場のリアルな声を調査することに長け、より有用的な調査結果のご提供、その後の戦略立案やアポイント獲得までのサポートが可能。
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2024年06月18日





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